吉乃の部屋にて
妻吉乃の部屋に、時久はやってきた。小さなベッドに、吉乃を寝かせる。枕頭から吉乃が、
「ご迷惑をおかけしてしまい、すみません、時久様……」
少しだけ目を伏せ、吉乃が呟いた。時久はゆっくりと首を横に振り、
「いいんだ、吉乃。お前は最近無理をしていたようだからな。それで、体を悪くしたのだろう」
「そ、そんな、無理はしていませんよ? 私は時久様の母上様から料理を習っていただけで……」
そう言い、吉乃は黙ってしまった。
「料理? まだ吉乃には早いんじゃないか?」
うーん、と呻く時久に吉乃は、
「何を言っているんですか、時久様。私は時久様の妻ですよ? そのくらいできて当たり前です。ですが、今の私にはほとんどできません」
若干、吉乃の瞳が潤んだ。そんな吉乃の頭を時久はなでてやった。
「そう言ってくれるのはありがたいが、あまり無理をするな、吉乃。お前はあまり体が丈夫なほうではないんだぞ」
叱りつけるように時久は言ったが、吉乃は時久と目を合わせようとはしなかった。
「私はちゃんとした時久様の妻になりたいんです!」
「そう固くなるな、吉乃……」
時久にはこれ以上、言葉が出なかった。だが、無理矢理にも言葉を紡ぐ。
「とりあえず、体を休めろ。俺は邪魔になるから出ていくよ」
ひらひらと手を振ると、時久は吉乃の部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます