第3章 アザレアの虜囚 2
窓の外には、宝石を撒き散らしたように煌めく街並みが広がっている。不夜城然とした賑わいを、夜のサウスは見せていた。サウスの夜景を見下ろすように見たのは、リオンにとってこれが初めてだ。泊まっていた宿の部屋は二階で、隣の建物が間近に迫っていた。借りている家は、平屋だった。綺麗だと思い、窓の外を暫し眺めた。
今、リオンは、アザレア騎士団本部の四階の一室にいた。
リオンの同行をアーダが認めてくれたため、フィリスを逃がさないよう監視の意味も込め、ここ騎士団本部に泊まることとなった。
燐火ランプの青白い光が、部屋の中を照らし出した。
部屋の中は、実用性を重視した清潔感に溢れていた。
「ごめんなさい、リオン」
宛がわれた自分の部屋からリオンの部屋に来ているフィリスが、ベッドにちょこんと座りながら青白い色が混ざった金色と分かりづらい色合いをした瞳で見上げてきた。
「わたしのせいで、とんでもないことに巻き込まれてしまって」
フィリスは、申し訳なさそうな顔をしていた。
泣いた跡が、目元にまだ残っている。やっと、泣き止んだばかりだ。アーダに憎まれているフィリスは、先ほどあまりリオンに役立てる発言をできなかったと落ち込み、自分の闘魔種としたことを悔やんだ。
「フィリスが契約していた元闘魔種は、自分の意思で
リオンはフィリスの隣に座りながら、できるだけ優しく声をかけた。
フィリスは、リオンの言葉には応えなかった。リオンは、フィリスがランヘルトを悪く言うのを聞いたことがない。元契約闘魔種に、情愛があるのだ。だから、進んでアーダに同行することを申し出た。フィリスは、ランヘルトを救いたいと言った。それが、死をもたらすことであっても。
闇墜ちした闘魔種――魔人は、決して元には戻らない。救いをもたらすには、殺すしかないのだ。それでも、フィリスは救いたいと願っている。ただ、純粋に。
その覚悟を聞いたリオンは、痛切な胸の痛みを覚えた。フィリスの悲しみがいかばかりか、察するにあまりあった。フィリスはランヘルトを救いたい。兄を殺された復讐心に身を焦がすアーダに協力してでも。情愛を抱く者の死を招くことであっても。
結果は同じでも、フィリスは救済のため、アーダは復讐のため。
リオンは、軽く頭を振り、フィリスとアーダの絡み合う愛憎を振り切った。
「
気になっていることを、リオンは口にした。
「
「鎧が?」
「はい。ダークメイルに選ばれた魔人が、
フィリスは、居住まいを正し顔に真剣な表情を浮かべた。
「ダークメイルの力は強力です。元々強い魔人の戦闘力を更に高めます。ダークメイルは、相応しい魔人を探し続けています。魔物との戦いが始まってから、
一一歳の女の子とは思えないほど、フィリスの話は理路整然としている。アーダからも聞いた話だが、よく飲み込めなかった。闘魔種となったばかりでまだ何も分からぬリオンは、彼女の話をよく聞いた。
「何だか怖いね。ダークメイルが意思を持っているみたいで」
「いいえ、意思を持っているのです。最終的に、ダークメイルは取り憑いた魔人の意思を乗っ取り、完全な
恐れのようなものが、珍しくフィリスの顔に浮かんだ。
「ランヘルトは、ダークメイルに選ばれて――取り憑かれて、ベルトナン王子を殺害した」
リオンは、ランヘルトに己の意思はまだ残っているのだろうかと思った。
「はい。アーダ王女が、わたしを憎むのはよく分かります」
悲しげに、フィリスは綺麗に整った顔を曇らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます