第16話 ロケって事は無いよね
現在位置から12キロ。
都市部で舗装された道路を自動車で移動なら10数分から20分といったところだろう。
しかし、航空機では数分。
まさにちょっとコンビニまでといった距離である。
それはオートジャイロのスカイハウンドも例外では無い。
最高速度、時速260キロとAH64アパッチなどの戦闘ヘリよりは幾分遅いが、それでも市販のヘリと比べても負けてはいない速度を誇っている。
高度1千フィート(約3百メートル)を時速2百キロで巡航すればケルシャー村まではあっという間である。
そして、外周約1キロの村を通過するのもすぐである。
「ケイちゃん、見た?」
自分が今見た光景が現実か、思わず聞いてしまう大西だった。
「映画のロケって事は無いよね。
うん、実際に火事になっている家もあるわね」
偵察ポッドのカメラの録画映像を見返し、デジタルズームなどで確認しながら景子が答える。
村自体はファンタジー系ラノベに良くある様な村といった感じであった。
直径1キロ程度のいびつな円形の動物よけと思われる木の柵に囲まれた農地がある。
その内側に直径5、6百メートル程度の木の塀に囲まれた村本体がある。
今時存在しない様な文明レベルの村である。
電柱も無いし道も未舗装でただ平らな地面だ。
木造家屋が多いが石積みの家屋もある。
建築様式としてはヨーロッパ寄りと思われた。
ただ、時代が非常に古いが。
そして、村が軍隊の攻撃を受けていた。
ざっと見ても数千を超えている。
実際に動物よけの柵の内側に入り火矢で村を攻撃しているのは百を少し超える位だろう。
しかし、柵の外側で天幕を張ったり馬の世話をしたりと活動している人数は明らかに数千を超えているとわかる。
すぐに落ち着きを取り戻すと大西は反転し今度は右周りに村の外周を旋回飛行し始める。
馬や馬車、弓矢に槍や剣も確認出来た。
石弓もある。
明らかに中世レベルの武装だった。
「本気で攻撃はしていないね、これは。
結構有能な指揮官かもしれないね」
大西の独り言に問いかける景子。
「そうなの?。
人数が多いんだから一気に攻めた方が良いんじゃないの」
それにうなりながら答える大西。
「うーん、それも正論なんだけどね。
でも先を考えれば無駄な死人は出さない方が良い」
一度チラリと景子を見た後再び視線を戻し続きを話し出す。
「これはあくまで推測だけど、この部隊の規模からいって本格的な侵攻作戦だよ。
この村はあくまで前哨戦でしかない。
村の規模からいって戦力過剰にも程があるからね。
だから、僕ならここで戦死者を出来るだけ出したく無い。
村人が村を放棄して無血開城してくれるならそれが最上だよ」
「でもそれだと侵攻された事がこの国の軍隊に知られちゃうんじゃない。
それは良いの」
「もう知らせは出ていると思うよ。
だって部隊は村の国境側しか包囲していない。
たぶん指揮官はそれも織り込み済みだろうね。
伝令が馬なら近くの町までどれ位で着くかな。
着いたとして即応出来る戦力はどうだろう。
これが奇襲ならこの規模の部隊に対抗出来る戦力を用意するには時間がかかる。
それこそ数日で用意できれば御の字さ。
それに別のルートからも同時に侵攻していたら更に対応は遅れるだろうね。
戦力の割り振りというのは結構もめるものさ。
国力に余裕があれば、僕なら確実にそうする。
現代でもそうだけど中世の軍隊はそれにも増して大規模な移動にかかる手間が大変なんだ。
戦力を集中させるのは戦術の基本だけど、移動できないで遊兵になってしまう部隊を作るよりは分散させて確実に投入したほうが効率的だよ。
まあ、軍隊でここら辺の事を考える様になったのはシュリューフェンプラン辺りからだから結構近代になってからだね。
話を戻すと、どうせすぐには援軍は来ない。
移動で疲れのある兵士を休ませつつ一部の兵で嫌がらせ程度の攻撃を行う。
そして、相手が疲れたところで降伏勧告の後、攻撃って処かな。
攻撃部隊も交代しながらの攻撃なら休む時間が取れるしね。
疲れた少数の部隊と休憩して気力あふれる大部隊。
勝敗はもとより明らかだけど、更に差がつくね」
ここで一度説明を止めて一息間をおいて大西が言う。
「てな分析でどうです、サトさん。
モニターしてんでしょ」
だが、それに答えたのは木綿子だった。
「せっかく二人きりなのに何を理屈っぽい事延々話てんの。
月がきれいですね、ぐらい言ってみなさい」
木綿子の言っている意味がわからなかった景子は首をかしげている。
「言いたい事は解りますが時と場所を考えてください。
それと今は月が出ていません」
大西が呆れた様に言うと佐藤が会話に入ってきた。
「木綿子、大西に言われる様じゃお終いだぞ。
それとその分析には同意だな。
多分、今日は一定時間おきに攻撃を繰り返して疲弊をさそい、明日降伏勧告って感じだろうな」
そんな佐藤の言葉に景子が言う。
「じゃあ、それまでに救出作戦をたてるんですね」
「「えっ?」」
大西と佐藤から同時に声が出た。
「助けないんですか?」
さらに聞いてくる景子。
「いや、逆に聞くけどなんで助けるの?」
大西の言葉に景子は答える。
「だって、前に大西君から借りた本なんかだと助けて英雄とか勇者になるんでしょ。
違ったかな」
「まあ、ラノベのテンプレなら確かにそうだねえ。
でもこれは現実だから。
正直、危険を冒してまで村の人を助けたいとは思わないんだよ、僕は。
この村に何人住んでいるか解らないけど、その全員の命よりケイちゃんの安全の方が僕には大事だ。
冷たいかもしれないけど、見知らぬ他人の為に危険は冒せないよ」
そう大西が返すと景子は黙ってしまった。
しかし、その分木綿子が言ってくる。
「よく言った大西。
ヘタレにしては上出来だ」
そして佐藤も
「まあ、そう言う事だね。
この件に介入する理由が無いよ。
あっても、皆の安全の方が大事だ」
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