第12話 異世界転移よりは現実的だ
お姫様抱っこされた景子と共にローンレンジャーのある広場に到着した大西。
その登場の仕方に周りから声が上がる。
「どこの王子様だ、お前」
と努。
「大西にしては随分大胆じゃないか」
と元。
「何々、一気に進展かしらぁ、ケイちゃん」
と明美。
その他のメンバーもひやかしてくる。
すぐに景子を降ろすと大西は、周りを気にせず佐藤の所へ行く。
「お待たせです、サトさん」
なにくわぬ風な大西にため息交じりに佐藤が言う。
「お前ってたまに主人公体質だよな。
普段はヘタレ変人だけど」
心外だとばかりに肩をすくめて首をふりながら答える大西。
「僕は基本、参謀や博士ってポジションですよ。
暴走熱血主人公のカールやゲンさん、ナンパな2.5枚目主人公の高久やシノさんに振り回される可哀想な巻き込まれ系キャラでしょ」
「いや、まあ。
色々ツッコミたいが置いておこう。
とり合えず強化服は脱いで良いぞ。
フミがドローン飛ばして上空警戒してるから大丈夫だ。
むしろ今後を考えて充電しておいた方が良い」
「了解です。
コマンド、ガレージイン、装備着脱、マーク」
光の粒子に包まれる大西。
数秒後、光が消えると白衣をまとった大西の姿があった。
白衣のしたは白のワイシャツとベージュのスラックスだ。
「ぶれないねぇ、お前は。
この状況でもその格好かよ」
あきれた様にため息まじりに佐藤が言う。
「いやー、伊達に路音連者の博士君とは呼ばれてないし」
笑いながら返す大西。
「褒めて無いからな、一応」
そう言った後、表情を変えて佐藤が言う。
「で、お前は現状をどう考える」
笑顔のまま大西が言う。
「サトさんが考えているのはこれが現実かどうかでしょ。
本当にどこか知らない場所につれてこられたのか。
それともアヴァロンのステージ『リアル』みたいな極端にリアルなヴァーチャル空間なのかって事でしょう」
「そうだ。
イベントボス撃破が条件てのも被っているしな。
それに何より異世界転移より現実味がある。
エクストラステージ『リアル』。
運営のいう限定ミッションがこれだと考えれば一応説明がつくところもある」
既に地図データを確認した佐藤は現在位置がダルケス王国の国境近くであると確認している。
地球にダルケスなんて名前の国は無い。
更に国境を越えた先のブルームラント帝国なんて国も無い。
第一、現存する皇帝は日本の天皇だけで有る事を知っている。
帝国なんて名乗る国は過去のものだけだ。
地図データが確かならここは地球では無い可能性がある。
「いや、それでも説明つかない事が多いでしょ。
運営が住居不法侵入までして僕等を強制ログインさせたとでも?」
「しかし、異世界転移よりは現実的だ」
「そう言われるとねぇ」
ちなみに彼等の言うアヴァロンというのは古い映画のタイトルだ。
VRゲームが現実に登場する前、それをモチーフに製作された映画だ。
オタクの間では有名な監督がメガホンを取った事も有り、佐藤や大西も普通に観ている。
勿論、劇場ではなくDVDではあったが。
内容はともかく美しいシーンと壮大なBGMでスタイリッシュな映画ではあった。
その映画の最後に登場するのがステージ『リアル』だった。
膨大な情報量を誇り、現実と僅かな差すら存在しないステージ。
それが『リアル』だった。
ここは現実なのか、それとも限りなく現実に近いヴァーチャル空間なのか。
「確実に区別のつく手段が有れば良いんですけどねぇ」
うなる大西。
佐藤も無言で考えている。
「本来ならバイタルモニター機能の安全装置を利用した寝落ちで強制ログアウト、なんて手も考えられるんだが…」
佐藤の発言に大西が返す。
「それも怪しいですよね。
なんせ僕等、気がつくまでここで寝てたんですから。
それに全然眠く無いですし」
再び無言になる二人。
少しの時間が過ぎた処で大西が顔をあげ努を呼ぶ。
「カール、お前さんのブレード貸してくれ」
突然の展開に首をひねる佐藤。
呼ばれて素直に近づいてくる努。
「何だよ、新しい改造のアイデアでも浮かんだか」
そう言いながらベルトに着けたケースごと愛用の熱伝振動ブレードを差し出す努。
刃渡り40センチ以上ある片刃のナイフだ。
電源を入れる事で熱と刃の高周波振動で強化服の装甲板すら切り裂く武器だ。
さらに無骨なナックルガードもついている。
それに外観からは分かり難いが、グリップ内に銃身が2本取り付けられ刃に沿って弾丸が射出される仕組みなっている。
DATでは兵器のカスタマイズや新開発がある程度出来る様になっていた。
単に銃身を伸ばして命中精度を上げる等に始まり、既存の兵器や部品を集め組み合わせる事で新しい兵器として登録が出来た。
簡易3DCADで形を作り、機能を設定する。
それを運営の専用サイトにデータを送り半自動化された審査を受けて通れば登録され、今後の生産及び使用が出来る様になる。
努のブレードは中国のノーリンコ・ナイフピストルをベースデータに使用した物だ。
オリジナルは22口径4銃身であったが、運営の審査で2銃身となった。
熱伝振動の機構の体積の関係で銃身を減らしての承認だった。
銃弾は貫通性の高いファイブセブン弾を使用する様に変更。
小口径ながらも一般的な防弾ベストを貫くファイブセブン弾である。
強化服の装甲部分では弾かれるが、センサー部やバイザー等強度の弱い所に撃ち込めば十分牽制になる。
これにより、斬撃、刺突、打撃、銃撃と多様な攻撃の出来るマルチブレードが完成した。
これのデータを作ったのが機械工学科の佐藤と大西なのだ。
他にもいくつかの男のロマン的兵器を作っており、それ故の博士君の呼び名であった。
「いや、ちょっと試したい事があってな」
そう言ってブレードを受け取りその場に座り込む大西。
そして左足のスラックスの裾を大きく捲くる。
「うわー、やっぱり不気味だねぇ、これ」
そこにあるのは普通の人間の足。
脛毛一本ない不自然にきれいな事を除けば一見して普通の足だ。
しかし、この足には姿勢制御用AI内臓ロケットブースターが内臓されている。
それがあまりに生身に近すぎて不気味に映るのだ。
精巧なマネキン人形に人間が感じる不気味さだ。
そしてブレードを抜くとむき出しの足にあてがう。
「お、おい、何する気だ大西」
あせる努。
しかし佐藤は納得がいった、でかしたとばかりに笑顔で言う。
「そうか、部位欠損か。
その手があったか」
スイッチが入れられブレードの刃がうすく赤みを帯びる。
そして歯を食いしばった大西が一気に振り下ろし脛の中央付近で切断する。
静寂がひと時辺りを支配した。
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