第11話 お迎えに参りました、姫

ケイちゃんこと安田景子はフミこと山田文香(やまだ ふみか)の幼馴染だ。

一歳年上の彼女は景子にとって、所謂近所のお姉ちゃんだった。

中高一貫の女子高を出た景子は当時、VRゲームに手を出してはおらずソーシャルゲームを偶にプレイするくらいだった。

だが、大学で文香と再会したのが転換点であった。


文香はゲンさんこと中山元(なかやま はじめ)、シノさんこと篠崎裕也(しのざき ゆうや)、カンちゃんこと菅野明美(すがの あけみ)と共に高校で演劇部に所属していた。

そこに後輩としてカールこと柏倉努(かしわくら つとむ)、高久隆志(たかく たかし)が入部して来たのだ。

そう、路音連者の半数はこの演劇部の部員なのだ。

最初に大学でゲーム研に入った佐藤正義に、VRゲームのパーティーの人数合わせに元や裕也が誘われた。

それが元や裕也を通じて明美や文香まで参加する様になったのだ。

努と隆志、シモンこと下之園純也(しものその じゅんや)は大西健一(おおにし けんいち)を通じて参加する様になった。

彼等の学年は彼が最初にゲーム研に参加した。


景子は文香に誘われて参加する様になったのだった。

入学時、工業系総合大学であるこの学校に知り合いは文香だけだった。

その上男子の比率の高いこの学校。

唯一の文系学部の法学部を除けば女子率は低い。

景子と文香、明美の所属する建築学部は4分の3が男子である。

必然、景子にとり文香が頼りだった。

そうして、いつのまにか路音連者に参加していた。



先程より減速の噴射を強くしながら大西は景子の少し手前に降下した。

そして、殺しきれなかった勢いで地面を少し滑ると景子の前にたった。


「やあ、昨日ぶりだね、ケイちゃん」


「ええ。

でもどうしたの、大西君」


大西のいた位置に一番近くにいたのは景子だ。

しかし、装輪装甲車ローンレンジャーのいる方角ではない。

まわり道になる位置関係だ。


「歩きじゃ大変だろ」


そう言って片膝をつく大西。


「お迎えに参りました、姫。

では、失礼をして」


そう芝居がかった言い方で言うと景子を所謂お姫様抱っこした。


「ちょっと、大西君」


あわてる景子を気にもせず大西が言う。


「危ないからしっかり掴まって」


そう言われると素直に景子が大西の首の後ろに手をまわす。

それを確認すると大西は再びジャンプによる移動を開始した。


「もう、普段はヘタレなのに。

偶に強引で大胆なんだから」


その呟きはブースターの音で大西には届かなかった。




「ダイエットで体重が落ちたのは良いんだけど、胸のサイズが1つ落ちてFなっちゃった」


昨日の飲み会で何気無く?向いの席の景子が大西に言った。

思わず固まり箸を落とした大西。

1つ落ちてFですって。

じゃあ、元々はG?

えーとGは重力加速度だから9.8って、何を混乱してるんだ僕。

おっぱい星人を自他共に認め公言している大西には衝撃的発言だった。

大きいとは思っていたけどGとは。

いや、今はFか。

混乱の続く大西。

それを軽く笑みを浮べて見つめる景子。

女性としてはそこそこの身長で165センチある景子。

肩まで伸ばした髪は一切そめておらず、どちらかと言うと清楚な感じのする美人だ。

その為、実際の体型ほどグラマラスには見えない。

そこに突然のこの発言に大西は衝撃を受けた。

ちなみに周囲の反応はこんな感じだ。

大西の隣の席で同様に固まる隆志。

勿論固まった理由は大西とは違う。

景子が大西にこれを言った理由を想像してだ。

反対側の隣では努が感心した様に呟く。


「攻めに入ったな、ケイちゃん。

でも大西は相変わらずヘタレだしなぁ」


努の向かいの純也はにんまりした笑みを浮かべ景子と大西を交互にみる。

そこに邪気は無く、純粋に今後を楽しみにしている風だった。

それと対象的なのが反対側に座っている文香だった。

隣の景子を見た後、自分のある部分を見て呟く。


「もげれば良いんだよ、もげてしまえば。

そう、二人共もげてしまえば良いんだよ」


それを更に隣の明美が見て言う。


「フミちゃん、暗黒面に落ちてる、暗黒面に。

お姉ちゃんでしょ」


身長が155センチと小柄で華奢な文香は、下手をすると未だに中学生と間違われる事のある容姿をしている。

景子からはフミ姉ちゃんと呼ばれているが、容姿から言えば逆に見える。

そこそこの身長で清楚系でありながらメリハリボディの景子。

小柄で華奢、細い分あまり起伏の目立たない体型の文香。

ショートカットの髪型も活発なイメージより幼げなイメージに繋がってしまっている。

一部の男子学生には人気だが、文香自身は彼等と仲良くしたくは無い。

合法ロリなどと呼ばれて嬉しいはずも無い。

その為、最近暗黒面に落ちる時がたまにある。

困ったものである。



景子のクラスはネットランナーだ。

正確にはアバターのケイ・ハミルトンがであったが。

ネットランナーは直接戦闘をする機会の少ないクラスだ。

その為、素体スーツも戦闘能力方向での拡張性が低くなっている。

移動用の追加装備などは当然無い。

歩くしか無いのだ。

そこで大西は回り道になっても向えに来たのだった。

状況把握も満足に出来ていない現状。

全員が可及的速やかに集合する必要がある。

そう考えての行動だった。

そこに邪心は無い。

しかし、腕の中の景子をチラリと何度も見てしまうのは仕方無いのだろう。

当然、景子はそれに気がついている。

そして、その事に少し嬉しく感じているのだった。

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