第10話 行きますか

ローンレンジャーのサーバにデータリンクした大西は軽く舌打ちした。


「なんだよ、僕が一番遠いじゃん」


データリンクによりチーム全員の位置情報が得られた。

それによると一番遠いのが東に約2.5キロ離れた所にいる彼だった。

次がシモンで北西に約2キロ離れていた。

メンバーのいる方角、距離に法則性は無さそうで、広範囲にわたっていた。


「現在位置から一番近いメンバーはっと。

ケイちゃんか。

途中で拾っていくかな」


そうバイザーに映る情報を確認すると独り呟いた。


「コマンド、ガレージイン、機装兵カスタムモード。

マーク」


すると、大西の体が光る粒子の様な物に包まれた。

一方、大西の視界には装備可能な追加装備の一覧表が現れていた。

ゲーム内で何度となく見てきた画面だ。

その中から良く使う強行偵察(フォースリーコン)型装備のセットを選択する。

四菱重工の標準的機装兵『30式』。

それを基本に情報処理能力を向上させ、更に機動性を強化した上位モデルだ。

包んだ光の粒子が消えると姿を変えた大西がいた。

強化外骨格とそれとセットになった追加装甲で手足は一回り以上太くなった。

更に胴体部は分厚い正面装甲により厚みを増し、よりメカニカルな印象になった。

アニメ等のパワードスーツのイメージにより近くなった。

と言うかそのものである。

頭部もスッキリしたフルフェイス型ヘルメットだった物が、ゴーグルの様なパーツが追加されたり、耳の辺りに小さなアンテナやカメラとおぼしきレンズのついた筒状の部品がついている。

そして背中には下部に噴射口らしき穴が二つ開いた大きなバックパックが装着されていた。

 

「さて、行きますか」


呟いて前方に跳躍。

同時にバックパックの噴射口から白いガスが勢い良く噴射される。

それにより高度と速度が増す。

良く見ると肩や足元で断続的にガスが噴出しており、姿勢を一定に保っている様だ。

数秒の噴射を終えると、徐々に高度が下がりだす。

肩と足の噴射で足を前方に出した姿勢になると、下方に断続噴射を行い降下速度を調整する。

着地後、勢いで地面を滑りながら踏み込むと再び前方に跳躍する。

ホバー移動も出来るのだが、推進剤(ロケットパウダー)を節約する為ジャンプ移動を選択した。


機装兵に使用されてるロケットブースターだが、基本は固体燃料が使用されている。

細かい粉末状にされた火薬を圧縮空気と共に燃焼室に送り点火する。

そして噴射口付近で塩水を噴霧。

それにより水蒸気爆発による推力増加と噴出ガスの冷却を行う構造となっている。

白いガスは水蒸気なのである。

機装兵に高速移動用ロケットブースータを付ける計画が持ち上がった際、一番のネックになったのが高温の噴出ガスであった。

強化服で着装者は守れる。

しかし、周囲は高温のガスにさらされる。

火災の発生等の周辺被害の恐れがあった。

実際、VTOL(垂直離着陸)機でもこれは問題になった。

耐熱耐火滑走路を用意出来ない前線基地などでは、事前に地面に水をまいておく等対策がとられた。

当然、機装兵にもなんらかの対策が必要となった。

そんな時ある技師が閃いた。

カールグスタフの方法はどうだ、と。

ここで言うカールグスタフとは無反動砲である。

本来、無反動砲や携行式ロケットランチャー、ミサイルではバックブラストという危険があった。

発射時に後方へ噴出される高温ガスの事だ。

野外なら後方に人を立たせなければ問題無い。

しかし、市街戦で屋内から射撃した場合、壁で跳ね返ったガスで射撃手が負傷する事が考えられた。

これに対し塩水をバックブラストに噴射して対応した無反動砲がカールグスタフだった。

そして、そのアイデアから開発されたのが現在のロケットブースターだった。

冷却しているとはいえ、素手で触れば火傷になる高温である。

しかし、火災を発生させる程ではなくなった。

欠点としては水蒸気のせいで目立つ事だ。

しかし、これは任意で水の噴出を止められる様にして対応された。

砂漠や荒地等、火災の起き難い環境では使わない事も選択出来るのだ。

やたらとこった設定であった。

アニメや漫画ではロケットブースターを普通にどこでも使っている。

排出ガスで火災など、森や密林で使用しても起きては居ない。

アマゾンの密林にブースターをふかしながら降下しても火事になどならないのだ。

ようやく視界に前方に歩く素体スーツが現れた。

IFFデータからローンレンジャー14と確認出来た。

ケイちゃんこと安田景子であった。

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