第9話 全員集合
佐藤正義(さとう まさよし)も大西と同じ頃に目を覚ました。
そしてほぼ同じプロセスを経て事態の異常性に気がついた。
ただ大西と違う事が1つあった。
「声が男だ」
状況を整理する為、一つ一つの状況を声に出して確認して気がついた。
アデリシアではなくなっている。
DATでの佐藤のアバターは女性であり、ゲーム内では自動的に声も女性になっていた。
ちなみにアデリシアが女性にしては高身長なのは佐藤の身長のせいである。
多くのVRゲームタイトルにおいて、アバターの身長はリアルの身長に合わせる事が推奨されている。
これはログイン、ログアウト直後の感覚の変化を最小に抑える為である。
極端に身長や手足の長さを変えると、無意識下の身体行動に齟齬が生じるのだ。
通常、人は歩くにしろ走るにしろ、とくに体の制御を意識していない。
無意識下で制御を行っている。
それゆえ体の各パーツのサイズが突然変化すると制御が困難になってしまう。
無意識下の事の為、本人にもうまく対応出来ないのが一般的だ。
まあ、しばらくすれば修正され普通に行動出来る様になるレベルの障害ではある。
しかしながら安全の為、身長の変更は5センチ以内にする様DATでは規定されている。
装備している強化服を見下ろして安心する佐藤。
ちゃんと男性用だった。
ステータスメニューで確認すると、アデリシアで装備していた神埼重工製『ランナー』の男性用モデルだ。
日本の国防軍の戦車兵などで採用されており、ランドブラスターの多くが愛用している素体スーツだ。
追加装甲等のハード面の拡張性は低いが、無線や情報処理能力にたけて、ソフト面の拡張性が高いのが特徴だ。
「ウン、このままじゃどうにもならないな。
幸いガレージ機能も使える様だからローンレンジャーを出しておくか」
ここで佐藤の言うローンレンジャーは彼の所有する装輪装甲車だ。
全長約8メートル、全幅約3メートル、全高約3メートル。
16輪の兵員輸送用装甲車を冒険者用に改造した車両だ。
屋根の上に自動銃座があり、車内からの操作で銃撃が可能。
通常はブローニングM2重機関銃と40mm榴弾発射器が装備されているが、7.62mmM240機関銃や38mm、45mmの榴弾発射器に変更も可能。
ネットランナー用サーバやダイブシートも車内に装備されており、路音連者の移動司令部である。
幸い佐藤が目覚めたのは地面の露出した平らな広場だった。
街道らしき幅5メートル位の道に接した半径10メートル位の少しいびつな半円形の広場だ。
恐らく街道を旅する旅人の休憩、野営用の土地なのだろう。
ローンレンジャーを出して停める十分なスペースがある。
ゲーム内では安全地帯でガレージ機能を操作する事でガレージ内の任意の乗り物を出す事が出来た。
残念ながら戦場で戦闘中に増援として出す事は出来ない仕様だ。
ここが安全地帯と判断されれば出す事が出来るだろう。
「コマンド、ガレージ出庫、ローンレンジャー、マーク」
光る粒子の様なものが目の前に集まり、数秒で光が収まると見慣れた装輪装甲車があった。
少なくともこれで護身用の拳銃とナイフしか装備してない先程とは比べ様もない戦力を得た。
「コマンド、メインサーバアクセス。
ローンレンジャー起動。
マーク」
装甲車のディーゼルエンジンが大きな音を上げて始動する。
同時に佐藤のバイザーにローンレンジャーの現在のステータス等が表示される。
そして数秒後。
「インフォメーションメッセージ。
IFFシグナルコンタクト。
ローンレンジャー41確認」
メット内スピーカーからサーバのAI音声でメッセージが聞こえた。
41は第4分隊のナンバー1。
大西のコールサインだ。
ここにいるのは自分だけじゃない。
佐藤の心にやっと明るいものがともった気がした。
「コマンド、全隊員に送信。
マーク。
ルート権限にて送信。
全隊員無線封鎖解除。
ローンレンジャーサーバにデータリンクを開始せよ。
後にローンレンジャーに全員集合。
繰り返す、データリンク開始。
後にローンレンジャーに全員集合、以上」
さあ、俺たちの戦いはこれからだ。
(連載中止ではありません)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます