第8話 マジでキモイです

しばし呆然とした大西であったが、気をとりなおして上半身を起こして周囲を見渡す。

ここは草原の様だ。

高さ40センチ前後の草が生い茂っている。

立ち上がって更に周囲を見渡す。

何にもない。

多少地形に起伏があるが、草の海が広がっている。


「メニュー、オープン」


バイザーの手前に別の画面、ウインドウが出現する。

強化服の機能ではなく、ゲームであるDAT自体の機能だ。

これが出来るという事はログイン中なのか。

上の方から順に見ていく。


「無いか」


1番下と2番目にある筈のコマンドが存在しない。

GMコールとログアウトのコマンドだ。

どう判断するべきか悩ましい。

とりあえずステータスコマンドを選択する。

画面が変わり、現在のステータスと装備品が表示される。

殆どはゲームでのアバター、四谷のパラメータと装備品だ。

現在は素体スーツと護身用の拳銃、ベレッタM93Rとコンバットナイフのみを装備中だ。

ただ、名前と年齢の表示が違っていた。

大西健一、20歳となっていたのだ。

メニュー画面を閉じた。


「コマンド、現在位置情報表示、マーク」


強化服に付属したGPS情報を表示させるコマンドを実行させる大西。

バイザーに表示されたのはエラーメッセージ。

しかし、すぐにメッセージが変化する。

マップデータ・ダウンロード開始。

ダウンロード終了予定時間は10分との表示。

これはかなりおかしい状態だった。

大抵の強化服のマップデータは空白地こそあるが全地球をカバーしている。

尤もカーナビとして使えるレベルのデータではなく、ざっと都市や山や河川、海などを入力してある全国地図レベルだが。

通常は活動地域を決定した後に詳細データを追加する仕様だ。

だが、詳細データ無しでも現在位置の表示自体はされる。

周囲の道路や建築物等が表示されないだけなのだ。

まして自動でマップデータのダウンロードが始まる事など無い。

何せ詳細マップデータはゲーム内通貨とはいえ有料なのだから。

おかしな事ばかりに大西の混乱は増すばかりだった。


「試してみるか」


そう呟く。

すると腿とアキレス腱の辺りの装甲板が割れて穴の開いた突起の様なものがいくつか飛び出す。


「ゲームでは普通に使っていたけど…。

リアルで見るとマジでキモイです」


そしてその場で垂直に飛び上がる。

強化服のサポートがあるので2メートル以上の高さには飛び上がれる筈だ。

飛び上がってすぐに轟音が響いた。

大西の足から飛び出た突起の穴から白いガスのようなものが勢い良く噴出し高度を上げていく。

10メートル位の高さまで上がるとガスの噴射が止まる。

すると徐々に高度が落ち始める。

今度はガスが断続的に噴出し、一定の速度を保って着地した。


「大西、人間辞めるってよ…。

って辞めねえよ、サイボーグですから、改造人間ですから」


セルフでボケツッコミをする大西。

意外と余裕がある様だ。

しかし、内心は結構真剣に考察を進めていた。

飛び上がって軽く周りを見たが草原だけだった。

掻き分けたり、踏みつけられて道の様になっている所が無かった。

シンプルな素体スーツといえど強化服。

その重量はかなりのもの。

それに機械化された足の重量もある。

恐らく今の自分の重量は150キロ位はあると考えられる。

大人2人分位だ。

それを何の跡も残さず草原の真ん中に放置する。

運ぶだけなら強化服を着用すれば1人でも運べるだろう。

しかし、草を踏み潰し掻き分け多少の痕跡を残す事になるだろう。

倒れ潰れた草は自分が寝ていた所だけ。

どういう事だろうか。

結論は出そうに無い。


「悩んでも何も進まん。

コマンド、IFF(敵味方識別装置)起動、マーク」


通常は無線封鎖の為止めている自発電波を発信する命令を出す。

自分以外のメンバーがこの近くに居れば反応が有る筈だ。

たとえ無線封鎖状態でも受信の機能は生きている筈。

そうすれば向こう側が何らかの行動を起こしてくれる可能性は高い。

とりあえず更に状況確認を進める事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る