第1章 異世界に来ました
第7話 知らない天井、すら無い
その日の大西健一の目覚めは健やかだった。
昨日の飲み会を考えれば意外とも思えた。
ある事を除けば。
大西達は昨日、サークルの部室でサトさんこと佐藤正義(さとう まさよし)に運営からメールが届いた事を聞いた。
春のイベントミッション『暁の車』。
これをクリアした一部のギルドのチームリーダーに運営から直接メールが届いた。
内容は追加のイベントミッションに参加する権利が与えられるというもの。
イベントミッションの内容はまだ未公開。
一部のチームリーダーにしか着てない理由は、推測だが恐らく先着順で参加者が限定されているから。
知り合いでは『最低野朗』の1番隊と2番隊。
そして『戦乙女遊撃隊(ヴァルキリーランナバウツ)』が参加の予定。
もしレイドミッションなら一緒にやろうとギルドマスターのキリコとブリュンヒルデに合意を得ている事。
反対する者が居なければ参加したいとの事だった。
『デイアフタートゥモロー』は多くのファンタジー系RPGと違い、1パーティーの人数制限が12名となっている。
これは4名で1分隊。
4個分隊で1個小隊という意味で、小隊規模で1パーティーとするという軍事色の強い仕様だ。
それゆえパーティーと呼ばずチーム(部隊)と呼ばれるのだ。
そして、その仲間となったチームの集まりがギルドとなる。
最低1チームあればギルドは結成できる。
なので『路音連者』はギルドであり、同時に『路音連者』第1小隊となる。
ちなみに『最低野朗』は第5小隊まであり特別編成中隊と呼ばれている。
4個小隊をもって1個中隊とする為こう呼ばれる。
DAT内では最大規模ギルドの1つだ。
そして、複数のチームが合同で攻略する大規模ミッションにおいて合流したチームをレイドチームと呼ぶ。
大抵は中隊規模、4つのチームで挑むミッションが多い。
当然だが参加に反対する者は出なかった。
詳細が不明の為、スケジュールの調整等は現時点では出来ないが、参加する旨メールを送る事になった。
その後、少し時間をおいてイベント参加の前祝いで飲みに行く事となった。
昨日も酔慶で飲んだばかりだが、理由があれば飲みたいのがのん兵衛。
飲み始めてそれほどの期間が無くてもそれは変わらない。
ただ、この日は普段はあまりつき合わない酒に弱い佐藤や女性陣も参加する事になった。
人にもよるが、酒飲みは人数が多ければ多い程盛り上がる傾向が少なからずある。
それゆえ、盛り上がり過ぎていささか飲みすぎた様だった。
それでもきちんと帰って服だけ脱いでベットに入った記憶が大西にはあった。
明日は軽い二日酔いだろう。
朝飯は出汁をきかせた粥にするか。
具は大根があったな。
そう思いながらも幸せな気分で意識を手放した。
「青い空。
知らない天井、すら無い」
思わず大西は呟いた。
目が覚めて頭が痛く無いのは幸いだった。
しかし、この状況はなんだ。
目の前には澄み渡る青空。
そして無粋な数字や線が目に入る。
DATで見慣れたメットバイザーに投影された戦術情報だ。
方位に気圧高度、強化服のバッテリー残量に外気温、有毒ガスの有無等。
思わずDATで寝落ちでもしたかと思うが、すぐに自分で否定する。
最後の記憶はTシャツとパンツのみでベットにもぐりこんだものだ。
それにDATを始めとする多くのタイトルのVRゲームにあっては、ハードに安全の為バイタルモニターの機能があり、自動ログオフと同時に最悪の場合は救急通報する機能もある。
寝落ちなら自動ログオフとなり、目に入るのは知っている天井の筈だった。
経験者は語るというやつだ。
全然自慢にならないが。
有り得ない状況である事はあきらかだ。
何がどうなっている。
混乱するだけで呆然とする大西だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます