第8話 彼女への想い
振り向くと、そこには佐久野がいた。顔色が少し悪いように見えた。
『佐久野さん…どうしたの?』
『うん…新瀬君に謝りたくて』
『え?』
少し驚いてしまった。
『佐久野さんは別に悪いことしてないじゃないか』
『そうじゃないの』
佐久野は首を横に大きく振った。
『今朝、ちょっと強く言い過ぎたから…ごめんなさい』
『気にしなくていいよ。俺が悪かったんだし』
すると佐久野は一度下を向き、再び顔を上げると、
『でも、今日の新瀬君おかしかったよ?ずっとぼーっとしてて、先生にも怒られてた…あれ私のせいなんでしょ?』
『佐久野さんのせいじゃないよ。ちょっと考え事してただけだから』
俺は佐久野に笑顔を見せた。しかし、これは作り笑顔である。佐久野のせいでなったと思われてはいけなかったからだ。そもそもあれは不幸ではない。俺の不注意だ。
『そうなんだ…』
佐久野は一瞬心配そうな顔を見せたがすぐに笑顔になった。
『じゃあ私行くから。気をつけてね』
そう言うと佐久野は、向きを変えて歩いて行った。どうやら違う道で帰っているようだった。
俺はその姿をじっと見守っていた。
俺は家に着くと、すぐに自分の部屋に入った。そしてベッドの上に横になって、佐久野のことを考え始めた。
『俺は佐久野のことをどう思っているんだろう…?』
そっと目を閉じると、佐久野の顔が浮かんできた。この時、佐久野のことが好きなんだなと思った。
しかし、佐久野と初めて会ったのはまだ昨日のことだ。ほとんど一目惚れと言ってもいい。
でも佐久野を助けたいと思ったのは間違いない。
本当に不幸なのは佐久野の周りの人間ではなく彼女自身なのだ。
俺は、いつでも誰にでもあの笑顔が出来る生活を彼女にあげたい。そう強く思った。
そして目を開けた。目の前に見える天井がいつもより高く見える気がした。
ふぅ~っとため息をついて再び目を閉じると、少しずつ意識が遠のいていった…
『サクノイロノニカカワルナ。サモナクバ、オマエモシヌコトニナルゾ』
『え?』
驚いて目を開けた。時間を見ると時刻はもう6時を回っていた。どうやら眠ってしまったらしい。
『何だ、あの夢は。佐久野に関わると死ぬだって?馬鹿馬鹿しい…』
あれはただの夢である。気にすることはないと思った。しかし、ある一点だけが気になってしまった。
『俺もか…』
そう、前の学校で佐久野が好きになった男の子は死んだのだ。もしかしたら彼もあの夢を見たのではないのか、そう思った。もしそうなら…
『面白い!呪いと戦うなんて、もう一生ないだろう。絶対勝ってやる!』
そして、明日佐久野に会ったら全て話そうと思った。呪いのことと佐久野への想いを。
すると、
『典貴、夕飯出来たわよ!下りてらっしゃい』
母さんに呼ばれた。
『はーい、今行くよ』
そう言って俺は部屋を出てキッチンに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます