第5話 始まる不幸

門を出てすぐに思った。佐久野の家はどこにあるんだ?

家の場所がわかると帰り道がわかるので、何かが起こっても早く対処が出来ると思ったから俺は佐久野に聞いてみた。

『佐久野さん、家どこ?』

すると佐久野は少し考えて首を傾げながら、

『ごめんなさい。まだこの辺のことよくわからなくて、詳しくわからないの…』

そして口の辺りに手を持っていき、

『確か3丁目だったかな?そこの大きな道沿いにあるんだけど』


佐久野の言葉に俺は驚いた。俺の家もその道沿いにあるからだ。

『俺の家の近くじゃないか!』

『え?』

佐久野も驚いた顔をした。

『それなら帰る道も同じだな』

『うん』

佐久野は頷いた。

帰る道のりが普段通る道とわかったので少し安心した。どこに何があるかわかっているからだ。


そして俺と佐久野は並んで歩き始めた。

しかし、互いに言葉が出なかった。

チラッと佐久野の方を見た。何か話し出しそうな顔はしていなかった。


俺はその空気に耐え切れず、佐久野に話しかけようとした。しかしその時、

『あのね』

突然、佐久野が話しかけてきたのだ。俺は驚きながら返事をした。

『な、何?』

『もし、いつもと変わってることがあったらすぐに言ってね』

『わかった。でもなんで?』

佐久野は少し俯きながら言った。

『その後からはやっぱり一人で帰るから』

『え?』

思わず声が出たがすぐに理解し返事をした。

『俺なら大丈夫だって言っただろ』

『何かあってからじゃ遅いの!』

佐久野の目には少し涙が浮かんでいた。俺はそんな佐久野にこれ以上反発は出来ないと思ったので、わかったと答えた。


その後、俺は佐久野に何回か話しかけたが、佐久野からは『うん』とか『そうだね』などの返事しか返ってこなかった。

本当に誰かと関わりたくないような感じだった。


やがて家の近くのいつも風景が見えてきた。ここまでは何も変わったことはなかった。佐久野の反応も結局変わらなかった。

そして、あと少しで俺の家というところで、突然佐久野が立ち止まって、

『ここよ。この家』

『ここなの!?』

確かに標識には『佐久野』と書かれている。俺は驚いた。偶然なのか、それとも運命とでも言うべきか、佐久野の家は俺の家の3つ隣にあったのだ。

そしてこの時、俺は最近引越して来た家があったことを思い出した。それが佐久野だったのだ。


『俺の家あそこなんだけど』

とりあえず俺は自分の家を佐久野に言った。

『そんなに近くだったの!?』

佐久野もそれを聞いて驚いていた。


『こんなに近くならいつも一緒に帰れるな。とりあえず今日は何もなかったし、呪いは偶然だったのかもしれないな』

俺は軽く言ったつもりだったんだが、佐久野は深刻に捉えていた。

『まだわからない』

佐久野は話を続ける。

『すぐ近くだけど、安心しないで。家に帰ってからも』

俺は佐久野の真剣な顔を見てゾクッとした。

『わ、わかったよ。じゃあ、また明日』

『またね』

佐久野はニコッと笑った。その可愛さにドキッとした。しかし、すぐに心配そうな顔になり、気をつけてと言った。

俺は頷くと自分の家の方に向かった。


ドアの前についた。今日、家には弟の望(のぞむ)がいるはずだったが、チャイムを鳴らすと望は怒るので自分の鍵を開けて入ることにした。

そして、鞄の中から鍵を出そうとしたその時、

『危ない!』

上から望の声が聞こえた。俺は上を向いた。すると顔に何かが当たったのだ。

『イテッ!』

声が出た。そして当たったものを確認するとテニスボールだった。

俺は上を向いて、

『コラッ!望!何やってんだ!』

望を怒った。すると望は顔を部屋の中に引っ込めた。

仕方ないので、中で説教しようと思い俺はボールを持ち、鍵を出して家の中に入った。


中に入ると望が立っていて、

『お兄ちゃん、ごめんなさい…』

望は泣きそうになっていた。そんな望を見ると怒れなくなってしまった。

望はまだ小学2年生だ。やんちゃなこともする。その辺はいつも手を焼いている。


俺は望にボールを渡した。そして理由を聞くと、ボールを投げて遊んでいたら窓から出てしまったようだ。そこに偶然俺がいたというわけだ。

それだけのはずだが、俺は偶然という言葉が引っ掛かった。


『私に関わった人は皆、不幸なことが起こったの』


佐久野の言葉が頭に蘇った。

『これが呪い…?まさかな』

俺はそう呟いて自分の部屋に向かった。

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