人形の就寝
しばらく二人で動画鑑賞をしていると、次第にリオネの様子が変化してきたことに気づいた。
私の呼びかけに対する反応が、ワンテンポ遅れるようになったのだ。
それに、膝の上に感じる体温が、心なしか高まっているように感じる。
「リオネ?」
「……はい」
「もしかして、眠いのか?」
パソコン画面の端に表示されている時計を見ると、時刻は午後9時を回ったところだった。私にとってはどうといこうとのない時間だが、子供にとっては十分に夜更けと言えるかもしれない。
「……はい。少しだけ、眠いです」
リオネもそう答えたので、いつもより大分早いが、今日はもう休むことにした。
パソコンをシャットダウンし、眠そうに目をパチパチさせているリオネを連れ、隣の寝室に移動する。
一人暮らしの我が家の寝室にあるベッドは、当然のようにシングルベッドだ。私以外の誰かが寝泊まりすることなど一切想定していなかったので、来客用の布団セットなどもない。
リオネを床で寝かせるわけにはいかないし、かと言って、私自身、床に寝転がって体を痛めるのは避けたい。
「ちょっと狭いけど……くっついて寝れば大丈夫そうだな」
仕方なく、リオネと体を寄せ合って眠ることにした。
リオネは帰宅してすぐネグリジェ風の服に着替えていたので、そのままベッドに寝かしてやり、私はクローゼットから取り出したパジャマに着替えてから、リオネと向かい合う形で布団を被る。
二人の額がくっつきそうなほどの近さで、私たちは寄り添った。
「リオネ、枕の高さは大丈夫?」
「はい。ちょうどいいです」
ベッドや布団だけでなく、枕も一つしかなかったため、リオネはタオルを何枚か束ねた物を枕代わりに使っている。明日中に買っておくべき物がまた一つ増えた。
布団の中で、私はリオネの手を握る。
柔らかく小さな手が、微かな力で握り返してきた。
「おやすみ、リオネ」
「おやすみなさい、ご主人様」
リオネの瞼が、ゆっくりと閉じられる。
それから程なくして、規則正しい寝息を立て始めた。
ドールケースに収められていたときとは異なる眠りが、リオネに訪れたようだ。
リオネの愛らしい寝顔を眺めながら、まだ眠気の予兆すら感じない頭で、私は明日のことを考える。本来なら、今日の準備不足を反省するべきかもしれないが、過去のことだし、今は置いておこう。
ともかく、明日は段取りを決めて的確に動く必要がある。急いで買い揃えなければいけない物が多いから、買い物だけで丸一日潰れると思ったほうがよさそうだ。
けれど、不思議とそれが大変なことのようには感じない。
――きっと、隣にリオネがいるからだ。
愛らしい人形とすごす明日への期待は、不安や心配よりも遥かに大きい。
リオネは、これから先、私にどんな表情を見せてくれるだろう。どんな声を聞かせてくれるだろう。どんな仕草を見せてくれるだろう。
愛しの少女人形の寝顔を見つめながら、明日への期待を脳裏に思い描く。
そうして、いつしか私の意識も、眠りの海の底へと落ちていった。
愛しの少女人形 乙姫式 @otohimeshiki
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