第4話 未来なんて見えなくてもいい

数十分後。


「いやあびっくりしたよ。死ぬかと思った」


呆然としながら警察に連行されていく犯人を見ながら、櫃野風斗ひつのふうとは何事もなかったように笑う。


「スゴイね藤堂。本当に未来が見えるんだ」

「……いや、違うでしょ!あんた、死んでたじゃない!」


数十分前、確実に銃で胸を貫かれたクラスメイトに触れた時に見た未来。

それが今のこの状況であった。


「まあでも良かったじゃん!あたしもほんとうに死んだかと思ってびっくりしたけど!」

雨音れいんが肩を叩く。

彼女がこう言うということは、本当に一瞬心の声が消えていたんだろう。


「ほら言っただろ?僕は『60歳までは大した事件もなく長生きする』って」

「あのね……銀行強盗に巻き込まれて死にかけるのが大した事件じゃないって言うの?あんた」

「そりゃそうだよ。クラスメイトが目の前で死ぬことに比べれば大したことないよ」


あんまりにも当然のことのようにそんな言葉を吐くので、唖然としてしまう。


「へえ、すごいなあ。嘘ついてないよ彼。本当に大したことだと思ってないみたい」

雨音れいんが感心したような声を上げる。


「え、そのために人質代わるとか言い出したの?馬鹿なのあんた?」

「馬鹿は酷いなあ」

「馬鹿は酷いよ」

馬鹿二人から同時に声が上がる。


「あ、そうだ。君たちも占い師のおじさんに占ってもらいなよ。すごく当たるんだよ」

「……ふん、占い師なんてバカバカしいわ。未来なんて、見えないほうが楽しいじゃない」

「君がそれ言うんだ」


未来なんて、見えなくてもいい。

見えたってそれがいいものだとは限らないからだ。

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君が見る僕達の未来 @shio1202

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