3 発生

 鈍感な葵と凹んだ洸二は暫く車中で沈黙を保っていた。

しかし時計を見た洸二が、

「腹減らないか?」

と尋ねた。

「あ、そういえば減りました」

葵は答えた。

 考えてみれば、葵は合コンの1次会からずっと男にしつこく話しかけられていて、ろくに食べ物にありつけてなかったのだ。食べたものは付け出しとフルーツくらいだった。

「マックでいいか?」

「はい。もちろんドライブスルーですよね」

「当たり前だ。そんな格好のヤツなんか連れて歩けるか」

「……うるさいわね」

「何がいい?」

「うーん……マックグリドルのソーセージ&ベーコンのセットで、爽健美茶で」

「オーケー。じゃあ寄るぞ」

 洸二は車をマクドナルドのドライブスルーに着けた。

『いらっしゃいませ』

「マックグリドルのソーセージ&ベーコンのセット2つと、ドリンクを爽健美茶とホットコーヒーでお願いします」

『かしこまりました。マックグリドルソーセージ&ベーコンお2つ、ドリンクが爽健美茶とホットコーヒーですね。お渡し口までお回りください』

代金と引き換えに朝飯を受け取り、2人は再び帰路についた。

「ほれ、おまえの」

洸二は先に葵に渡した。

「あ、有難うございます。代金払います」

「いやいい。俺が腹減ってたから、おまえを付き合わせたんだし。しっかり食べとけ」

「深谷さん……有難うございます!いただきます!!」

そう言って、葵はマックグリドルに品よくかぶりついた。洸二は不器用でドSだが、実は誰に対しても同じように優しい男だった。

 やがて葵の自宅マンションまで到着した。

「どうも有難うございました。深谷さんお気をつけて」

「しっかり休めよ」

そう会話した矢先、洸二の携帯電話が鳴りだした。

「……はい深谷……うん、うん、……わかった、今川崎にいるからすぐ戻る」

電話を切った洸二の様子を見て、葵は何かを感じ取った。

「……事件ですか、深谷さん?」

「ああ。本牧の倉庫で殺人事件が発生したと通報があったそうだ。休み返上だよ」

そう答えた洸二が車を出そうとしたのを葵が制した。

「深谷さん、私も行きます。5分で着替えてきますので待っててください!」

「ちょ……おまえ夕べから寝てないだろ!?休んどけ!!」

「大丈夫です。その代わり、車の中で仮眠とらせてください」

「……ったくおまえは大学の頃から変わってないよなあ。よし、10分待つ。着替えて、顔洗ってこい!血が着いてるぞ!」

「はいっ!!」

葵はその大きな目をキラキラと輝かせていた。

「ちゃんと手帳と手袋も持って来いよ」

「うるさいなあ、わかってますって!!」

事件発生、時刻は7時47分を指していた。

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