自薦句集 「天」

@surisuri

第1話

青白し残業帰りの冬の月

不揃ひに水に漬かりし枯櫓

三枚におろす釣りたて大岩魚

青白き三日月山に懸かりけり

門標に溶岩積みて羊歯若葉

高原に鳥声響く青嵐

雑事忘れて夕焼の山を見る

岩割れ目くぐりし水にビール浸け

毬栗の毬のみ残り栗畑

線香の先火を点ける暑さかな

鳥兜ザックの上に見えにけり

向日葵の種だけ残り立ちにけり

台風にテレビアンテナ吹き飛びぬ

軒下に蕾ばかりの秋の薔薇

雲の間に薄く日が差す秋の暮

稲刈られ田中にトラクター残る

年の暮奉納布巾吹き曝し

真直ぐに土手走る人息白し

空晴れて遠山見ゆる三ケ日

重箱に蒲鉾並ぶ三ケ日

海苔筺に番号振りし名札あり

電線に鷗居並ぶうららけし

大振りの鮪並びし魚市場

立春のせり声弾む市場かな

花の雨釣人傘無く竿眺む

芋に灰塗りて植うるや老夫婦

木鋏の開き置きざり花菫

木鋏に下草取るや庭仕事

土と葉を付け枝豆の売られけり

菖蒲園エンジン音のこだまかな

代替りおでん屋暖簾新調す

ベランダに七夕笹や雨の中

切り株に手の平大のきのこ生え

新涼や動き始めるクレーン車

木道の陰にかたまりちんぐるま

草原に低く飛び交う秋の蝶

牡丹園茶屋に牡丹の苗木売る

鴨の群スワンのボート避け泳ぐ

ホームレスワンカップ手に鴨を見る

鳥除けのCD吊るし冬牡丹

地平線冬の三日月登り来る

春雨に濡れ水門の閉ざしあり

春の朝眼鏡探しに始まりぬ

浜に波寄せてはくだけ夏近し

花の下奉納相撲の幕垂るる

街角の豆腐屋点り牡丹雪

盛り上がる貝塚のあり春の風

花盛り若草山に朝日さす

三社祭若き売子の声はづむ

新緑の色深くなり六合目

雪形の農鳥浮び朝の富士

紫陽花の脇に香残り醤油樽

朝顔鉢両手に抱へ街歩く

鬼灯市頬被りして声上ぐる

台風の過ぎ去り跡の筋の雲

弥彦山霧の向こうに鳥居見ゆ

空青し高峰高原黄菅咲く

仕事始め少し遅れて家を出る

七福神回る道際幟立つ

氷張るバケツの中や魚一尾

雪落とし真上に松の枝伸ぶる

梅の木に電飾点し京の家

紅梅や社殿に祈る若き人

噴火口内壁のみの雪溶くる

椿落つ円錐状に土の上

送電線梅雨に火花を散らしけり

東京の街汗かいて坂上る

海食崖白波はじけ風薫る

父の日や一人縁台酒を酌む

百合の花日毎に咲いて傾けり

羚羊や夏草を食ふ音静か

行く雲の速度ゆるやか秋の空

印旛沼土手に並びて花火見る

コスモスの風に撓ひて横に咲く

丸山の頂囲む紅葉かな

夏蜜柑袋に入り生り残る

嵯峨菊の天に向かつて咲き揃ふ

薩埵峠眼下に実り夏蜜柑

桃色の手袋残り垣の枝

伊勢の街正月気分残りけり

伊勢講の幟はためき初参り

寒鴉尻羽上下に前進す

雪の中シベリアのごと列車行く

春一番帽子の廂押へ行く

木々芽吹き道沿ひの庭緑増す

出開帳雨の中にも人並ぶ

桜咲き満月の夜を義父逝けり

鯉幟風に飛ばされ木に掛かる

行く春や千住大橋風の中

刺抜地蔵塩大福買ひ初庚申

桜桃忌玉川旅館賑はへり

日食や暑き街角風通る

噴水や飛沫を浴びて写真撮る

チェアガール汗の匂ひや野球場

城跡に木霊響きや蝉時雨

津軽路の一面稔り山聳ゆ

夏過ぎて銭湯巡り終了す

干し柿に余りあるほど柿熟す

校庭に幟を立てて芋煮会

東海道関の街並月照らす

秋雨や筆捨山に虹かかる

社会鍋通りに並び年の暮

切通し大根干すや若夫婦

年暮るる若草山に夕日差す

氷張り父残したる金盥

日脚伸び仕事帰りに寄り道す

冬枯れの木々真直ぐに立ちにけり

寒桜池の堤に並び咲く

岩山に朝日のさして草萌ゆる

春雨にコート襟立て二人連れ

電波塔雲に隠れて鷹が飛ぶ

荒鋤田水張りてあり人映る

湯の街の川沿ひ柳吹きけり

教会の先端光り夏日暮

教会の鐘一つ鳴りパリの春

ブローニュの森ジョギングに汗流す

誕生日迎へその日の薔薇贈る

大陸の夏雲並び動きけり

朝夕に上着を羽織り夏のパリ

パリ白夜オペラ終わりて暗くなる

モネの家浮世絵飾り薔薇の咲く

セーヌ川秋風が吹き逆流す

朝日受け紅葉の映えるセーヌ川

行列に秋風が吹き万国博

朝日受けエッフェル塔や天高し

神殿の円柱並び天高し

胸像のハイネの墓に小鳥来る

教会の尖塔の横月昇る

雨降りて中近東に冬近し

シューマンの墓に乗りたる落葉かな

冬近しエッフェル塔に雲かかる

大観覧車より後の月下に見る

年暮るるセーヌの舟に灯の点る

ゆりかもめ風上向いて並び居る

着飾りて馬車行進や年の暮れ

木枯らしやセーヌの岸を吹き払ふ

ゆりかもめ風に向ひて一直線

雪残るアフリカの山一歩づつ

立春の厚き雲間に空青し

エッフェル塔霞の中に点りけり

女神像春の日受け光りけり

蒲公英の花壇の端にひとつ咲く

ビルにビル霞の中に並び立つ

春の宵エッフェル塔の光増す

行く春やパリマラソンが街駆くる

ガラス器にミルクを入れて苺喰ふ

Tシャツにジャンパー混じり衣替へ

明け易し一番列車の音響く

永き日のセーヌに舟の行き交へり

公園にヨットを浮かべ日を過ごす

西瓜食べ幼き頃の日を思う

草刈りの舟の岸辺に漂へり

夏日さしパリの街路の賑はへり

パリ祭や最後行進消防士

蜜柑花西洋館の庭に咲く

向日葵が並びアムステルダムの街

アラスカの氷河に続き草紅葉

草紅葉 北の原野を埋め尽す

秋近しエッフェル塔に遠き雲

クルーザーセーヌを下り秋近し

通勤のパリの街路樹木の実降る

街路樹の下人濡らし秋の雨

秋の夜のセーヌの先や遠花火

アラスカや氷河に続く草紅葉

パリの墓地祖霊に菊の供へあり

マロニエの黄葉になりて道続く

秋の蜂迷ひ飛び来てパリの街

両の手に荷物を抱へ年の暮

雪融けの水の濁りてセーヌ川

冬の月パリアカデミー浮き出づる

春めきてセーヌの水面光りけり

片方の手袋拾い帰り道

春めくやセーヌの水の動き出す

桃の花震災ミサに綻ばず

急ぎ足セーヌの岸に桜咲く

春めきてセーヌの水の黒さ増す

綿飴の如宙に浮き春の雲

春の雲エッフェル塔にとどまれり

鈴蘭を売り残したる乙女かな

セーヌ川濁流となり鳥帰る

両側に菜の花を見て道走る

さくらんぼ店の真中積みてあり

ファーブルの庭一面に蝶舞へり

枝豆の中華風なりパリの店

秋の夜や遠くの音に目を醒ます

秋雨にみな傘ささず街歩く

揖斐川の岸の屋敷に黄砂降る

送電線夕闇に消え桜咲く

新緑やダムの橋桁一直線

花の散る湯町にダムのクレーン立つ

江戸川の上を吹き抜け風五月

石段の長谷寺ぼたんぼたんかな

舟通る両岸紫陽花ばかりかな

梅雨に入り空地のどこも草茂る

梅雨明けの両国橋や二人連れ

トラクター青田の真中残りけり

学生が少なき街や夏休み

夏の日の照り返したり里の墓

通勤の人の急ぐや今日の月

異国にて月仰ぎたるなつかしき

早春や早き朝より畑仕事

ペルーにも段々畑や春は来ぬ

神宮杉秋風吹きて音を出す

秋深くマスクの目立つ電車かな

荒川の浄水場に冬日照る

スカイツリー冬至のの空に聳えけり

エチオピア熱水の湧き蝶の来る

エチオピア新年を迎へ月同じ

新年に満月懸かりエチオピア

診療所北風吹くままに開業す

砂糖黍工場動き伐採す

ナイロビに緑の樹下にお茶すする

沖縄に桜まつりの始まれり

炎天下羊を追ひて犬一匹

イースター前の月見る土漠かな

遠方も近くの山も炎天下

土漠なる緑に羊集まれり

あやめ咲きわが家の庭に猫二匹

日傘差しウオークマン聴く女子大生

スキー場蓮華つつじが埋め尽くす

そばの花雨の信濃に咲き盛る

五月雨に濡れて光るや蛇紋岩

魚市場鰹の揚がる夜明けかな

夏の雨茶店に寄つてやり過ごす

外国人夕立に濡れ歩きけり

秋雨のゴルフプレーや軽井沢

芝枯れてゴルフボールの白目立つ

酒倉の庭咲き盛りつわの花

いか釣りの舟が並びて秋の壱岐

さざんかの古墳の里に曾良の墓

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自薦句集 「天」 @surisuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る