第10話

 当時は、まだ相方が東京に行って、間もない頃だった。一人生活の中で、朗報が飛び込んだ。ダウンタウン松本人志さんが、映画を撮ったというのである。タイトルは「しんぼる」。それを観たい一心で、夢中で動画を撮ったり、アルバイトのお給料で、鷹を獲ったり、花を摘ませたりしていた。そんなこんなで生活保護というお金を、パソコン代に回したり、そこそこの贅沢はさせてもらった。そうこうしている内に、知人の女性から、電話で話をしていた。それと平衡して、テレビドラマで少年が、橋を飛び降りるシーンと出くわした。

 その頃には、もう考える力は残っていなかった。若しくは、考えすぎて頭がパンクしていたのかもしれない。

 何を思ったのか、私は、マンションの二階から飛び降りた。

 死のうと思ったのではない。いや、死のうとしていたのかもしれない。私が、飛び降りる直前に、頭を過ぎったのは、

「はい、飛び降りました。普通に歩いて階段上ります。」

という手筈だった。誤算だったのは、飛び降りて、足の踵の骨が折れたことで、叫び倒すほど痛かった事と多くの人々にご迷惑を掛けてしまった事である。

 呈良く、書いているが、要するに女遊びが過ぎて、骨折をした。

 またもや、歩いている人に助けられた。靴を脱がせて貰うとき、痛みは絶頂に達した。

「痛ーいっ!痛ーいっ!」

と、ずっと叫んでいた。街中で通りすがった私を見て、

「この子、ちょっと頭が……。」

と言っていた。その言葉が、全てを言い表している通り、私は馬鹿だった。


 名谷病院にお世話になることになった。父や母や友達が見舞いに来てくれた。

「あほなことしましたな。」

と、母が一度だけ、見舞いに来てくれた時、そう言った。三ヶ月の入院生活の中で、4人部屋で、ベッドに横たえながら、リハビリをしたり、車椅子に乗ったり、手術をして頂いたりした。丁度、野球のシーズンで、プロ野球と高校野球と相撲が、病院の大きなテレビで、流れていることが、多かった。

 ある看護師は、「大人は正直。」と言っていた。

 三ヶ月の入院で、読書をしたり、野球を見たり、隣のベッドのおじさんと喋ったり。退屈しない様に、なっていた。漸く、松葉杖を突かずに歩けるようになった頃、私は、ある新聞記事に目が行った。

「松本人志監督『しんぼる』釜山国際映画祭受賞。」

私は、無性に観たくなった。そうだ。私の元来の目的は、松本人志監督の作った映画を、大画面で観る事だった。足も完治していない状況で、私は、足を引き摺りながら、実家へと向かい、先輩に連絡した。

「しんぼるっていう松本人志さんの映画が公開されたんですけど、観に行きませんか?」

と電話で話をした。足を引き摺りながら、映画館へ向かい、映画「しんぼる」を観た。元々、悪かった足が、映画館を出るときには、立って出口まで歩けなくなるほど、凄い映画だった。

 時を同じくして、私は、カウンセリングを受けていた。こころの病にかかっている為、お薬と専門家の意見は、必要だった。

 医師は、

「グループホームに入る積りはない?」

と、しきりに聞いてきた。散々、断ったが、何度目かで折れた。あれよあれよ、という間に、会議が組まれ、福祉の職員さんと父と看護師と理学療法士と私で、話し合いの場が設けられた。程なくして、実家から作業所に通う日が続き、飛び降りたマンションから、グループホームに挨拶をしに行った。いつの間にか、私はグループホームのメンバーになっていた。

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