第7話
「小笠原君、きみ、ひらのに行ってもらうから。」
突然、言われた施設長の言葉は、重かった。一瞬、怯んだが、自由にさせていただいた報いとしては、仕方のないことだった。というのも、グループホームひらのという施設は、男の住処という印象を、私自身が、持っていたからに、他ならない。
そう決まってから、大事にしていたパソコンを、廃品回収に出した。消費電力が、かかることと、大事なデータを盗み見られる危険性があったからだ。
「小笠原! 今日は、大事な日なんやぞ!」
その声で、目が覚めた。2階に住んでいるおじさんの声で、目が覚めた。引越しの日だった。
家財道具を、バンに詰め、一路、新しい施設に車で、運んでいただいた。着いた瞬間、グループホームの 先輩たちが、引越しの荷物を、部屋に運んでくださった。
今になって思えば、グループホームひらのでの生活は、楽しかった。
「全ては、笑いのためや。」
という、おじさん。歌手を目指すおじさん。やたら、パワフルなおじさん。寡黙だが、仕事のできるお兄さん。コーヒーを振舞っては、人にものを教えるのが、上手なお兄さん。その都度、勉強になった。
人生経験豊富な同居人の方々は、何かを、私に教えてくださった。
「全ては、笑いのため。」
言葉が、私の心の片隅に、今でも残っている。人生の師匠というのが、同居人の方々、に対する私の印象である。
色々あった。
男の住処だけに、諍いや喧嘩も耐えなかった。その度に、結束力は増していったような気がする。施設 長から、退去を命じられたとき、私は、新しいアパートを探しに、躍起になった。なかなか物件が見当たらなかったが、同じ職場で、姉妹施設の方が、新しいマンションを、見つけ出してくれた。引越しの段になり、私は、感謝の気持ちも込めて、長く使っていた再生専用のDVDプレイヤーを、寄贈することにした。
いろんな方々のお世話もあり、私は、遂に一人暮らしを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます