第四話 スペクトラムマンよ!永遠に!! その2


スペクトラムマンよ!永遠に!! 第3章 -----------------


リラ姐さんの

「ノヴァ…テラフォーミングオペレーション(新地球改造大作戦)」

発動から24時間後………


国土交通省では地球外からの侵略者についての特別記者会見が開かれようとしていた。


政府は(実質有効な対策はとれなかったが)プリティ獣に対する対応で大わらわであり、結局、記者会見は 日本政府緊急事態対策委員会メンバー 国土交通省特別顧問 田所博士に一任されることとなった。


ちなみに日本政府緊急事態対策委員会とは、国連の秘密機関「対外宇宙侵略機構」の日本支部の表の顔であったが、実質組織が破綻した今となっても公にするわけにはいかなかった。


人類はリラ博士に対抗しようとしたが、戦う前に敗れたなどと発表しようものなら、パニック必至なのは明白であったからである。


今は人々の混乱を避けることが最優先である。


原稿さえ用意されていない会見で、博士は手短にプリティ獣の動向、現有戦力では対抗のしようがない事、プリティ獣はおそらく人類に危害はくわえない事、国民はパニックに陥らず静観するのがベストな事を淡々と語った。


その上で記者団より侵略者に対する博士自身のコメントを求める質問があった。


田所博士は眼鏡をはずし、無精ひげの生えた顔を手でこすりながら、一瞬答えに窮したようにも見えたが、オフレコと断った上でおもむろに発言した。


「……なんと恐ろしいことだろう。」

「地球外生物の侵略とはこのようなものなのか?」


しん、と静まり返った会場内を博士の声だけが響き渡る。このときは遅ればせながら国土交通大臣や官僚達も記者会見会場に到着していたのだが、あえて田所博士の発言をさえぎるものはいなかった。


「リラ博士は最初のTVジャックのとき、すでに「地球の支配者」を名乗っていた。我々は彼に指一本触れることさえできないが、彼は我々に無限に干渉できる。この状態を支配といわずして何であろう……。彼が地球に到着した瞬間より、地球の支配者は彼であったのだ」


「彼にしてみれば新たな支配地の原生動物を保護しているつもりなのだろう。我々が野生動物や天然記念物を保護するように……。あるいは、たまたま引っ越した家にいた猫をしつけるようなものかもしれない。」


「リラ博士は人類をいわば、飼いならそうとしている。おそらく、今回は第一次改良……といったところか……。第二次、第三次、どんな改造をされるかわからんが確かにナノマシンによる改造で、人類はより……なんというか、効率的なエネルギー消費……を行うことになり自然環境への影響は減るだろう」


「人類に対抗手段がない以上、望む、望まぬにかかわらず、この状況を受け入れるしかない」


……その場にいる何人の人間がそれに気づいたことだろう。


この瞬間、回線を通じて「対外宇宙侵略機構」参加各国の首脳達も、会見を見ていたのだが、彼らはすぐに気が付いた……。


実質、これは人類の敗北宣言であったのである。。


「……もはや、人類は地球の支配者ではない。リラ博士のいるかぎり、我々は二流の生物になってしまった。」


「だが、まだ希望はある」


全世界の注目する中、博士は続けた。


「それは……謎の巨人 スペクトラムマン!」




スペクトラムマンよ!永遠に!! 第4章 -----------------


田所博士の記者会見の同日、同時刻


グレート…ブリティッシュ共和国。

ザッキンガム宮殿では同国元首、リザエベス女王が同国のアレブ総理大臣から報告を受けていた。


ブリティッシュ共和国では「対外宇宙侵略機構」の英国代表を、首相自らが務める肩の入れようであったが、結果は惨憺たるものとなってしまった。


「……して、その最後の希望とやらはなんという名前でしたか?」

淡々と状況を報告していたアレブ首相の語気が、このときだけは一段と強くなった。


「スペクトラムマン、にございます」


…………………………………………


記者会見の同日、同時刻


名古屋市。


「社長、香水部門に続いて、食品部門、本業のエステ部門も売り上げ急降下、いったいいかがいたしましょう!?」


エステティックサロン、化粧品会社、食料品会社など、セレブ向けの事業を推し進める、叶美穂子女史のご存知、「美穂子ブランド」は今、窮地に陥っていた。


なにしろリラ姐さんの攻撃によって、人々のわきの下からは花の香りはするわ、体内で酒や食品(納豆ONLYだが)は生産するわ、美穂子ブランドの事業内容を直撃である。


こうなったら人々はエステどころではない。

……と、いうわけで美穂子女史は大ピンチなのであった。


泣き崩れる支社長を前に、窓の外の美しい夜景を見ながら(美穂子女史の家は地上30階)美穂子女史が言い放つ。


「ガタガタ騒ぐんじゃないわよ!なるようになるわっ!!あと、一週間持ちこたえなさい!!!」


人生何度目かの大ピンチだが、美穂子女史の心は不思議と落ち着いていた。なぜなら彼女には直感にも似た強い確信があったからである。


「あと、もう少し待てば……きっと彼が、なんとかしてくれるわ……」


…………………………………………


記者会見の同日、同時刻


東京都。


山の手沿線の少し外側の住宅街。


「ちょっと、コンビニまでビールを買いに行ってくるよ」


「あなた、帰ってきたらスジコちゃんをお風呂に入れて!」


「わかった」


磯田マスオ氏は東京に戻ってきていた。


証券会社に勤務する氏は、つい先日まで大阪に単身赴任していたのだが、リラ姐さんの侵攻で株価は大混乱。

主要な証券取引所は休止状態となり、全社員自宅待機となったのである。


しかし氏にとってはひさびさの長期休暇であり、妻のシジミさん、一人娘のスジコちゃん(2歳、口癖は「ハーイ」)とのんびり団欒を楽しんでいた。


「ハーイ」

玄関先に出たマスオ氏をスジコちゃんが追いかけてくる。


「スジコちゃんも一緒にお散歩するかい」


「ハーイ!!」


マスオ氏はスジコちゃんを肩車しながら、ゆっくりコンビニへの道を歩いていく。


空は満天の星空である。


スジコちゃんは星を一生懸命指差すたびに、「ハーイ」を連発している。

星が気に入ったようだ。


「スジコちゃんは、お星さまが好きなのかい?」


「ハーイ!!」


マスオ氏はゆっくり歩きながら、スジコちゃんに聞かせるとも、独り言ともつかない調子で話し続ける。


「いまね、お星さまからお猿さんがやって来て、人間をこらしめているんだ。人間が好き勝手にやってきたから、バチがあたったのかもしれないね……」


スジコちゃんは、意味が分かるかのように父親の話に熱心に耳をかたむける。


「もう、地球の事は人間に任せておけない……っていうことかな」


マスオ氏は立ち止まり夜空を見上げる。


「でもね、今、人間の味方してくれる人……宇宙人かな?……もいるんだよ。パパもその人に、2回も助けてもらったんだ。もしかしたら、もう一度僕たちを助けてくれるかもしれない」


「その人の名は……」


…………………………………………


地球はまさに、リラ姐さんの支配下におかれたも同然であった。

しかし、人々は希望を失っていなかった。


全人類の希望とは、かってリラ姐さんの侵攻を3度まで退けた謎の巨人


スペクトラムマン


であった。





スペクトラムマンよ!永遠に!! 第5章 -----------------


ここは地球の周回軌道上の宇宙猿人リラ博士の円盤。


全人類の希望の星、スペクトラムマン……蒲生博二はこの2日間、ずっと円盤内の壁にはりついたままなのだった。

マジックハンドにつかまったまま、3食、昼寝つき……だが壁にはりついたまま(笑)。ちなみにトイレは秘密(爆)。


「むにゃむにゃ……うおお~納豆がああああ!!れ、玲子さんが納豆に……」


「……ちょっと、起きてください」


博二が目をあけると、おなじみの直径2mほどの発光体が……ネピラ宇宙警察の小型UFOである。


「今、助けますから……」UFOが発光すると、博二を捕らえていたマジックハンドが力を失い、博二は床に尻餅をついた。


「いたたた……。ハッ、それより玲子さんが!!! 」


「玲子さんは、富士山頂のリラ博士の秘密基地に捉えられています。……助けに行きますか?」


「も、もちろん!!」


「その前に聞いてください……」


ネピラ警察は、ここ二日間のリラ博士の行動を博二に説明する。

そして……。


「よいですか?このままリラ博士の作戦を止めることが、果たして人類の未来にとってよいことなのでしょうか? 」


博二「!?」


UFO「このまま、リラ博士が地球を支配すれば、おそらく地球から戦争、飢え、貧困、地球温暖化……人類が課題としている、すべての諸問題が解決するでしょう……」


「実はリラ博士のやろうとしている事は、宇宙法にてらせば微罪にすぎません。地球の罪でいえば駐車違反……程度のものです。実際、彼は地球人を一人たりとも殺していません。彼は他の星の人間がある星の文明に干渉することは倫理上好ましくない……という1点についてのみ、宇宙法を犯しているに過ぎません」


「あなたを捕らえて作戦を実行したのも、自分のやっている 犯罪 に、二人も捜査官がつくような罪ではない事を知っているからです」


「リラ博士は作戦終了の後には、あなた方を解放すると約束していますし、その言葉に偽りはないでしょう。また、リラ博士の支配が続けば、人類は滅びることなくこのまま、何万年でも種を保つことができるかもしれません」


「一方、今回の作戦……リラ博士は本気です。万一の事を考慮して、戦闘準備も整っているかもしれません。惑星改造機にすぎないプリティ獣と戦うのとは、わけが違います。あなたの生命もどうなるかわかりません……」


「どうしますか?それでもあなたは戦いますか??」


沈黙があった。


が、再び口を開いた博二の声は迷いのないものだった。


博二 「俺のやろうとしている事は、正しいかどうかはわからない。あるいはある意味、人類にとってのチャンスをつぶすことになるかもしれない……。」


「だが、宇宙からの支配者に支配されている地球など、俺はイヤだ!」


「たとえ滅びる事になろうとも人類の将来は自分たちで決定すべきだ。俺はリラ博士と戦う!……それが間違っているかもしれなくても!!」


UFO「……あなたの決心はわかりました」


「リラ博士と対決しましょう。」


「さすがに、ネピラ警察の小型UFOはリラ博士の科学力をもってしても、探知する事は困難です。あなたは変身してリラ博士をひきつけてください。その間に私が玲子さんを救い出します。」


「スペクトラムマンよ!変身を許可する!!」


UFOから出た変身ビームによってスペクトラムマンに変身する博二。

(スペクトラムマンは170cm~50mまで大きさは自在に変われます。今は敵のUFOの中なので巨大化はしていません。)


UFO「スペクトラムマン!!リラ博士の旗艦、ヨンダーゲイ1号機は現在、日本を攻略中です。」


「日本は彼が初めて地球にやってきた場所……思い入れも深いのでしょう。また、あなたへの警戒も含んでの事でしょう……。万一、あなたが自由になったら、真っ先に日本にやってくると計算しているに違いありません」


スペクトラムマン「了解した。ひとあし先に行く」


日本をめざして飛び去るスペクトラムマン。


「それでも……もし、私が地球人であなたの行為を知ったとしたら」


UFOはそっとつぶやいた。


「……やはり、あなたを英雄と呼ぶでしょう」



つづく

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