第3話 要件定義は難しくない

 執筆分析、要するに執筆するものが何で、どういう設計がいいのかを考えるための材料を集めるフェーズです。

本来のICTエンジニアリングであれば、ここに入る前に、フワッとしたやりたい事をバッチリ足固めしておく工程が入ります。要件定義と言いますが、今回はそれもここでやってしまいましょう。


 物語執筆における要件定義の目的とは、執筆物を取り巻く環境、つまり読者を明らかにし、その環境の中で読後感を提供するために必要な執筆物の機能とデータを定義する事です。

それでは、その構成要素を見てみましょう。それは、

・出したい読後感

・読後感を想起する読者

・読者と読後感をつなぐ物語文

です。

 これらをまとめるには、次の4ステップが有効です。

・ステップ1 出したい読後感を明確化する。これは物語文への要望となります。

・ステップ2 読者を把握する。読後感発露のメカニズムを考えます。

・ステップ3 読者と読後感との接点を把握する。つまり、要旨、描写のタイミング、それらのルールを明らかにする事です。

・ステップ4 物語文全体を把握する。つまり、物語文の持つべき機能を洗い出します。

この4ステップを行う事で、最終的には以下が揃います。

・物語文への要求一覧(ステップ1より)

・読者のモデル(ステップ2より)

・物語文でやるべき事(TOBE)(ステップ2より)

・物語文の要旨とそのTPO(ステップ3より)

・物語文中でのイベント一覧(ステップ4より)

・物語文中の章立て一覧(ステップ4より)


 というわけで、まずは要件定義の4ステップをこなしてみましょう。

「ステップ1 出したい読後感を明確化する」

 今回はワクワクドキドキのスリルを提供したいですね。

 敵がいて、

難関があって、

やるべき事があって、

まあ、難関の先にはお宝があるんでしょう。


「ステップ2 読者を把握する」

 ファンタジーやSFが好きな中高生を想像してみます。

モデル中高生の性別は男性にしましょう。

これは筆者が性別男性だから想像しやすいというのが理由で、他ではありません。

中高生男子がワクワクドキドキする内容といえば、女の子とするえっちな事に決まっています。

ただ、中高生には十八歳未満厳禁の堅い守りがあります。これを破るのはよろしくない。

そこで、ちょいエロを目指しましょう。

うまくいきそうで、うまくいかない。残念! という流れで、あるべきです。


「ステップ3 読者と読後感との接点を把握する」

 ステップ2から、今回の物語は、

・ファンタジーやSFが好きな中高生が、

・ちょいエロに興奮しながら、女の子とするえっちな事を夢想して、

・敵がいて、

・難関がある場所に行き、

・難関の先にあるお宝を目指す。

・でも、十八歳未満厳禁の法の壁は崩せずに終わる。

・読者の感想は「あードキドキした。」

という事に決まりました。


「ステップ4 物語文全体を把握する」

 ステップ3を具体化していけば、こんな内容になるでしょう。

舞台は東京にある架空のスラム街で、

女の子とえっちな事をするのが目的の「あなた」が、

次々と童貞を捨てる悪友たちと差をつけるべく、

詳しくもないスラム街に飛び込んで、

美少女と出会い、純愛えっちを目指す。

でも、彼女には純愛えっちをすると死んでしまう理由があった。

「あなた」はどうする!?

そんな感じでどうでしょう。ドキドキしそうですね。


 これで大体の内容は決まりました。

「物語文中でのイベント一覧」を書いてみましょう。

1・あなたはクラスの悪友達との差をつけるため、より困難な性的経験を得るべく架空東京のスラム街・砂町へと向かう。

2・あなたは砂町で美少女と出会う。

3・あなたは純愛えっちを望むが、彼女には純愛えっちをすると死んでしまう理由があった。

4・あなたは大団円を迎える。


「物語文中の章立て一覧」はもう、イベント一覧のそのまんまでいいですね。

上から第一章〜第四章の、四章構成です。


 これまで書いてきたことを仕様として理解した上で、「執筆すべき事項=執筆条件」を洗い出すのが、執筆分析です。

執筆分析とは、仕様を読み込んで、執筆条件を抽出し、ふさわしい執筆技法を導出することです。

まあ、こんなものがなくても次の工程である執筆設計、--すなわち執筆材料を用意すること--はできてしまうんですが、

後になって執筆材料を見て、「執筆材料の意図」がわかりにくくなるのは、避けたいです。


 というわけで、執筆分析の具体的な手順について書いていきます。

執筆分析では、執筆のベースとなる要件定義の成果物それぞれに番号と評価をつけていきます。

評価としては、対象の易執筆性、つまり執筆のしやすさを評価します。

評価段階は、易、並、難、至難の四段階としましょう。今回はこんな感じにしました。


第一章・あなたはクラスの悪友達との差をつけるため、より困難な性的経験を得るべく東京市のスラム街・砂町へと向かう。

一の一、女の子とえっちな事をするのが目的の「あなた」:難易度/並

一の二、次々と童貞を捨てる悪友たち:難易度/易

一の三、詳しくもないスラム街に飛び込む理由:難易度/並


第二章・あなたは砂町で美少女と出会う。

二の一、舞台は東京にある架空のスラム街:難易度/難

二の二、美少女と出会い、純愛えっちを目指す。:難易度/至難


第三章・あなたは純愛えっちを望むが、彼女には純愛えっちをすると死んでしまう理由があった。

三の一、でも、彼女には純愛えっちをすると死んでしまう理由があった。:難易度/難


第四章・あなたは大団円を迎える。

四の一、大団円を迎える。えっちはできなかったけど、少年はより大きなものを手に入れた。:難易度:難


とりあえず、ここまでで三時間。今日の予定は完了です。


●執筆分析後の残り執筆活動

・執筆分析:  済(ゼロ時間)

・執筆設計:  二時間

・執筆準備:  済(ゼロ時間)

・執筆終了条件の設定:

        済(ゼロ時間)

・執筆計画:  済(ゼロ時間)

●執筆実行中の執筆活動

・執筆:    七時間

・モニタリング:三時間

・コントロール:一時間

●執筆終了後の執筆活動

・結果報告:  二分の一時間

・終了作業:  二分の一時間

・予備:    三時間

===============

 合計     十七時間(約六日)

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