勇者転生業者
十一屋翠
勇者はトラックで転生する。
高山高志は死んだ。
トラックにはねられて死んだ。
「あ、神様ですか? 活きのいい魂が入りましたよ!」
『お、いいねぇ。じゃあ直ぐに連れて来てよ』
「へい毎度!」
こうして高山高志の魂は神の元に連れて行かれた。
トラック運転手ロウラーは転生業者である。
彼は素質のある人間をトラックで轢き殺し、異世界へ転生させる事を生業としていた。
「お、今度は友達以上恋人未満の男女4人組だ。確かバルバール世界の神様と邪神様が転生者を欲しがっていたっけ。んじゃ、あの4人には敵と味方に分かれて戦ってもらいますか」
彼は決して悪人な訳でも、人を不幸に陥れて愉悦を感じている訳でもない。
彼はプロの転生業者である。
現世に絶望する者、己の不足を嘆く者、そういった全てをやりなおすチャンスを望む者達の匂いを嗅ぎ分ける才能があった。
だから彼は今日も転生を望む者達を轢き殺す。
◆
「お、いい感じに鬱屈したボッチ学生だ。今日はあの兄ちゃんにしとくか」
ロウラーがトラックのハンドルを握ったその時だった。
「別のトラックがボッチ学生の歩く車道に突撃して彼を轢き殺してしまった」
「大丈夫か!!」
ロウラーがトラックを降りてボッチ学生を抱き起こすが、既にボッチ学生は口から血を吐いて虫の息であった。
(駄目だ、コレでは助からん)
「困るねー、そのボッチ野郎はオレの獲物なんだよ」
「っ! その声は!!」
ロウラーが顔を上げトラックの運転席を見ると、其処には底意地の悪そうなバーコード頭の中年男性が居た。
「ハーゲット!! 貴様なんのつもりだ!!」
怒りをあらわにしたロウラーに対してハーゲットは何処吹く風とばかりに答える。
「何って仕事だよ。俺達転生業者はコイツみたいなボッチ野郎を殺して異世界に送るのが仕事だ。コイツだって異世界でチート人生を送れるんだから感謝して欲しいくらいさ」
ゲラゲラと笑うハーゲット。
「ウソをつくな! 貴様が斡旋する神はどいつもコイツも転生者を悲惨な目にあわせるのが好きな人格破綻神ばかりじゃないか! 王子に生まれたと思ったら異端の称号を与えて一生を隔離して世界を恨ませ魔王に変質させたり、幸せな家庭を築いた転生者が居たら目の前で家族を残虐な方法で殺戮させたりおと碌な事をしないじゃないか!」
「ゲヒャヒャ、俺達の仕事は殺して届けるだけだ。神様達が魂をどうしようが向こうの勝手だろうが」
「貴様はそれを望む神に優先的に魂を配っているだろう!」
「当然さ。高く買い取ってくれるからな」
「それどころか楽に死なせてやるべき魂を、時間をかけて苦しむ様に轢くなど悪魔の所業だ!」
「ちょっとした遊びだよ、遊び。仕事は楽しまないとな」
ハーゲットの言葉にロウラーはゆらりと立ち上がる。
「ならば勝負だ! オレが勝ったらこのボッチ学生の魂はオレが頂く」
「負けたらどうするんだ?」
「今日轢いた友達以上恋人未満の4角関係の男女の魂をくれてやる」
「マジかよ超レアじゃねーか! いいぜその勝負受けてやるよ!」
◆
「ルールは簡単、このストレートを走って次の十字路を先に越えた方の勝ちだ」
「OKだ」
ロウラーが10円玉を取り出す。
「コインが地面に落ちたらスタートだ」
ハーゲットが頷く。
ロウラーはコインを指で天高く弾く。
そしてコインが回転しながら地面に落ちたその瞬間!
「ファイヤァァァァァ!!!」
DOOOOOOOON!!
ロウラーのトラックコンテナの壁が競りあがり、中から現れた大量のバズーカ砲によってハーゲットのトラックは爆発四散。
ハーゲットは死んだ。
「悪は滅びた。ボッチ学生よ。安心したまえ、君の魂は私が責任を持って良心的な神に引き渡そう」
こうして悪の転生業者は滅び、ロウラーはまた一人転生用の魂を手に入れた。
と、そこで誰かがドアのガラスを叩く。
ロウラーはガラスを少しだけ開ける。
「あー、君君、ちょっと良いかね?」
「何でしょう?」
車のドアを叩いた男性は群青色の服を着ていた。
「君の車の荷台に載ってるのは、あれ武器だよね? 知ってる? 日本は銃刀法って言うのがあって、ああいうのは取締りの対象なんだよ」
ロウラーは無言でアクセルを踏んだ。
トラックはその巨体に見合わないスピードで前へと進む。
置いてきぼりになった男性が声を上げて追いかけてくる。
だがロウラーは男性を無視してアルセルを更に踏み込んだ。
「悪いが俺にはこの魂達を異世界に転生させる仕事が残っているのさ」
彼方からサイレンの音が響く。
転生業者の仕事は地球では何故か取り締まりの対象となってしまう。
だが彼等は臆する事は無い。
だって異世界に逃げればそれで済むだけなのだから。
「お、丁度いい魂発見。ついでに轢いて行こう」
今日も転生業者はトラックで犠牲者を異世界へ送る。
勇者転生業者 十一屋翠 @zyuuitiya
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