下位争い5
「あっ、おはようございます」
グラブハウスに入ると、元気よく挨拶された。声をかけてきたのはノルイエだった。すでに着替えており、荷物も持っていない。わざわざ入り口で待ち構えていたようだ。
「おう、おはよう。ノルイエ」
挨拶を返す。
「グラドさん、本当に助かりました。あれで、ルートも大丈夫だと思います」
一瞬、誰のことかと考えてしまったが、昨日まとめたデータを贈った相手と思い出す。確か、研修生時代の同期とかいっていた。ルート・ステングラム、選手を目指していたが適性検査に引っかかり選手の道を断念せざるを得ない事態になり、デバイスチューナーになったらしい。詳しくは知らないが、この有名な転科理由と高い技術を持っていることで、それなりに有名だったので名前だけは知っていた。
「そいつはよかった」
「は、はい、そうなんですが……」
「んっ? 何か問題があったか?」
ノルイエの反応に微妙なものを感じて、問題でも発生したのかと問い返す。
「あの、資料とおっしゃってましたが、いったい何のデータだったんですか? 昨日のうちにデータは彼女に送ったのですが、早朝からメールがすごく来てるのです」
話を聞くには、どうにも自分が見てもいいものなのか、やばいデータじゃないかといったように別の意味で不安になったってしまったようだ。データの意味を理解していないようならお手上げだが、情報の重要性を理解して困惑しているだけなら、仕事をするのに大きな問題はない。
「ああ、国家機密」
「えっ!?」
あながち嘘ではない。閲覧制限が高くないだけでワールドGⅡの関係者でなければ見ることが出来ない。逆ℬに言えば、関係者ならだれでもみれるレベルのデータだ。そこに俺の所見やメモが付いているだけの物。実際は大したもんじゃない。
「冗談だ。俺がワールドGⅡに参加した時のデータだよ」
「ああ、そういうことですか」
「データの扱いについては添付したメモに書いてあるし、常識の範疇で使える人物だろ? 噂のルートってやつは」
「噂なんですか?」
「俺なんかが知ってるレベルに有名なんじゃないか? 若手のホープなんだろ、ルート・ステングラム」
「そうですね。では、データを生かして頑張るように伝えておきます」
「そうしてくれ」
ノルイエと別れ、監督室に向かう。今日は、ノルイエをエンリの付き添いで外出させるので、チームのスケジュールを俺がコントロールしなくてはならない。といっても本来の監督候補であるノルイエに抜かりはない。選手たちにも指示を出しており、その内容をまとめたものをすでに受け取っている。今日はその内容を確認しながら、選手たちの様子や調子を見て回る感じになるだろう。最近、デバイスをいじってから時間が経ってる奴らも結構いるので、だいぶ馴染んで出来ている頃だろう。微調整とかが必要になってきているかもしれない。そこら辺を中心に見ていくのいいだろう。
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