下位争い4

「ごちそうさまでした」


「はいよ、おそまつさまでした」


食事を終えて店を出る。会計はもちろん俺持ちだ。一応、監督だし、年上だからな。稼ぎはリラの方が数段上なのだが、ここは男の甲斐性を見せておきたい。


「では、この後、私の部屋でお茶でも」


「おいこら」


すかさず、リラの額にチョップを入れる。


「痛いです」


「そうやって、ホイホイ男を連れ込もうとするな」


「……ぜんぜん、連れ込まれてくれないくせに」


なにやら、小声で言ってるが聞き取れない。


「さっさと帰って寝れ」


ぶちぶち文句を言い始めて面倒くさそうなので早く帰るように促す。


「今日のところは、これぐらいで我慢します」


「じゃ、お休み」


「はい、おやすみなさい」


こうして、リラは別れの挨拶を交わし、自宅に帰っていった。無駄な心配と思いながらも、一応建物の中に入るところまで確認して軽く手振ってから、俺も自宅に帰ることにした。


自宅に戻り、パソコンを起動してメールのチェックをする。帰宅途中にノルイエから連絡があり、ワールドG Ⅱに関する確認をされた。自分の件も含め、リラの不参加の話をしたところ、面倒なことに候補者名簿と選手のデータが送られることになった。


メールには、23名分の選手データが添付されていた。今回は、親善試合がメインの召集なので人数が多めだ。この中からだいたい14人に絞られる。今回は、うちのチームからはリラのみが候補に挙がっている。本人が参加を望んでいないので、不参加になる。エンリは予想通り、候補に名が挙がっていなかった。


ざっとデータを確認したが、前回とあまり変わり映えがない。実は俺も何度かスタッフとして参加してるが、知ってる顔の方が多い。今シーズンに入ってからは、監督として登録されている関係で、参加できなくなっている。


今回のGⅡの監督は、か。選手名簿以外にも、スタッフ名簿も付いており、監督やコーチングスタッフ、デバイスチューナーのことも書かれてある。監督に指名されているのは、マサキ・サカガミという男だった。金任せな大型補強があったとはいえ、グレードCで下位争いをしていたチームをグレードAで首位争いをするチームにした実績がある。正直、俺はあんまり好きじゃない。チーム強化へのアプローチの仕方が違い過ぎる。別に悪いとは言い切れない、実績はあっち方が上がってるのも事実。ただ、味気ないだけだ。


ミューゼ・シロード。今回の召集メンバーの中では一番期待値が高い選手だ。コイツは、グレードCにいた頃から結構注目されていた。だから、珍しくグレードCのチームに所属しながらもワールドGⅡに召集されていた。その頃は、俺も一介のデバイスチューナーだったので、チームスタッフとして参加していた。なので面識はある。とはいっても、こっちは雑用係みたいなもんだったし、あっちの印象には残ってないだろう。


その時のデータを引っ張り出し確認する。俺が担当していたのは、主にトレーニング用のデバイスの調律だった。試合用のデバイスは協会から派遣されたデバイスチューナーが担当していたらしい。データを引っ張り出したのは、ノルイエに頼まれたからだ。知り合いが、デバイスチューナーとして参加することになったらしい。自信がなくて不安になってるその知り合いにデバイスチューナーとして参加したことのある俺の事を話したら、アドバイスを貰えないか頼んで来たようだ。仕方がないので、その人向けに資料をまとめることにした。不安といっても、デバイスチューナーなんてやることは基本一緒だ。自分のチームだろうと、ワールドGⅡだろうと。参考になるかは相手次第だが、俺が当時やってた業務内容と調律に使ったデータ類を渡すことにした。本来は、トップシークレットで国家機密ともいえるが、過去のワールドGⅡのデータを今の当事者に渡すだけなので大きな問題にならないだろう。今回はリラを参加させないので多少の後ろめたさもあったので、協力することにした。


データを圧縮してノルイエに送った。直接連絡するのはめんどくさそうなので丸投げにする。一応データには特殊なプロテクトをかけてある。あとは、口外禁止の約束をさせるようにだけは指示した。個人情報であり、国家機密になるからな。


最後の最後に降ってわいた仕事を終えて、一息つく。これで後はシャワーを浴びて寝るだけだ。パソコンをシャットダウンしようと操作してるとメールが届いた。誰からか確認して、そのままパソコンをシャットダウンした。あれが、わざわざパソコンに送ってくるということはだ。俺は、さっさとシャワーを浴びるために部屋をでた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る