下位争い3

「そうだ、ノルイエ。帰りに一緒にメシでもどうだ?」


「えっ!? しょ、食事ですか?」


最近ご無沙汰だったので、たまにはと思って誘ってみる。


「えっ、えっと、あの、その、お誘いは大変ありがたく。ぜひともっ、ご一緒したいのですが、今日は先約がありまして」


「そうか、残念だな」


振られてしまった。たとえ、軽い気持ちで誘ったとしても断られるのはダメージが0ではない。声のトーンが気持ち下がるぐらいは人としてしょうがないことだなどと無意識に気持ちを立て直すため、思考を巡らす。


「はいっ、ですから、必ず、また誘ってくださいねっ」


そしたら、いきなり両手をがしっと掴まれ、そんなことを言われた。


「ああ、わかった。また誘う」


「絶対に、ですからねっ」


掴んでいた俺の手をパッと放すと、そう言葉を残して、足早に去っていった。というか、ほぼダッシュだった。


「早いな、さすが元選手」


もう姿が見えなくなったノルイエが消えていった方角を眺めて、思わず呟いた。その後はクラブハウス出て、自宅のある居住区域に向かう。帰りにどこかによって夕食を済ませるべきか、どの店にするかなどを考え歩いていると。


「グラドさん」


名前を呼ばれた。よく聞き覚えのある声、ほぼ毎日聞いている声。


「どうかしたのか? リラ」


「あの、ご相談したことがあって、勝手ながら待ってました」


声のする方に視線を向けるとそこにはリラがいた。表情が少し堅い、結構真面目な話がありそうな様子だ。


「なあ、飯は済ませたか?」


「いえ、まだです」


「じゃあ、どっか寄るか」


「はい、お付き合いします」


何がいいかを聞いても、お任せかなんでもいいだろうから、自分お好みで店をピックアップしていく。


「どっか、いきたいところはあるか?」


「リガール・ロウがいいです」


「主張してくるとは珍しいな」


「はい、あの店の料理は私好きですから」


リガール・ロウは、俺の行きつけの店でもある。クラブハウスからも近く、かなりの頻度で通っている。


リラを伴ってリガール・ロウに向かう、店の位置はお互いに知っているので迷うこともない。特に示し合わすこともなく歩みを進める。


「調子はいいみたいだな」


「はい、教えてもらったことが上手く機能している感じがあります」


「それは心強いな、お前がいなかったら降格確定ゾーンに入っていただろうな」


移動の間、世間話程度に最近の調子などについて話す。


「グラドさんに拾われてなかったら、今の私はありません。なら、それはグラドさんの手柄です」


「はぁ、またそれか。お前に才能があったから獲った、それだけのことだぞ」


リラは、もともとグレードCのチームにいた。それも、グレードD落ち寸前の弱小チームだった。内情は詳しく知らないが、チーム経営の方もかなりひどかったらしい。しかし、かなりの赤字を生み出す不良債権であったチームをある新興企業が買収。潤沢な資金を基に大幅な補強を重ね、今ではグレードAで首位争いをしている。


もともとがグレードCで下位争いをしていたチーム、そこにいた選手は悉くお払い箱になった。その中には、リラも含まれていた。そのチームは、もはや変更不可のチームID以外は別の物になっている。


「でも、あのチームの買収騒動で、グラドさんが裏でいろいろ動いてくれたから、こうして選手として続けていられるんです」


「はいはい。でも、お前の才能も本物だろ、ワールドGⅡ候補に名前が挙がってたぞ」


「はい、そういう話が来ているとコーチにも言われました」


ワールドGⅡとは、通常の一般チームではなく、国家代表するチームのことである。GⅡなので、準代表クラスになる。世界の期待の若手を集めて切磋琢磨させる目的で設けられた大会などがあり、国内の若手選手で結成される。そして、GⅠと呼ばれる方は正規の代表クラスであり、国の威信をかけて戦う国の代表である。。


リラは前回の召集の時も選出されていた。所属チームはグレードBで下位争いしてても、個の力が評価されれば選出される。GⅡといえど国家代表になることは名誉なことでもあるし、いい刺激になる。しかし、リラの反応はあまり芳しくない様子だ。


「なんか、うれしくなさそうだな。国の代表だぞ」


「そのことなのですが、辞退したいと考えています」


「辞退?」


「はい、ダメでしょうか?」


「いいんじゃないか」


本人が、そう希望するなら構わないと思う。オフシーズンでもないのでチーム事情によりという伝家の宝刀もあるので辞退は大きな問題にならないだろう。ただ、GⅡとはいえ、将来有望な若手が集まってトレーニングや試合をするだから、参加しないのはもったいない気もする。


「そう言ってもらえて、ホッとしました」


「もしかして、相談事ってそれか?」


「はい、あっさり解決してしまいました」


「ははは、それならそれでのんびり飯を食おうぜ」


話しているうちに店についていた。知る人ぞ知る、隠れた名店って感じがあり、閑古鳥は鳴いてないが特別混雑していない。ちょこっと中を覗いてみたが、席も空いてるようなので、中に入った。


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