第2話

「ほらレミー、此処を抜けたら自然区域だから気をつけて。もしかしたら初テイム出来るかもよ?」

「私の初テイムは、クラインだって決めてるの!」


そう言って、二重のパッチリな目で睨みつけて来るレミリア。いい歳したお嬢様が、頬を膨らませて剥れるのはどうかと思うよ?まぁ、そんな所が放って置けなくて、執事役と兼任して婿候補役も引き受けたのだが。


「はいはい。有り得ないから。そもーそも皆んな最初は、牧場とかで温和な奴に挑戦するんだよ?18にもなって、従魔が1人もいないなんてって、痛い痛い」


『乙女の年齢は無闇に口にし無い!!』そう言って腕を抓ってくる。

こんな感じで、レミリア程の令嬢と軽口等をやり合えるのも、10年執事をやって幼馴染化しているのが大きい。


さて何故こんな居住域外を2人して歩いているのかと言うと、初代陛下と竜神様が決めたルールである。『高位貴族の継承権を持つ者は、パートナーと一緒に世界を見て回る事』だそうだ。初めは従者や護衛だったのが、長い旅を2人で乗り切れば絆が深まるとかで、婚約者や婿候補がパートナーに選ばれ易くなった。


因みに婿候補は婚約者じゃないの?と疑問に感じるが、つまり詭弁なのだ。如何に相手を信頼していても、長期間2人きりの旅なのだ。婿候補とでもしないと、外聞が悪い。それに婿候補に指名するのは、かなりの信頼を置いている相手なので、実際に婚約者に昇格しても問題ないのだ。


尤も、普通に従者や侍女とのペアもそれなりにいるが、主に分家に多いのだろうか?まぁ主家の場合、周りから『跡継ぎ早く!』の圧力が凄いから、当主が焦るのも仕方のないことなのだろう。


とまぁ長くなったが、現在レミリアお嬢様と見聞を広める旅を始めた所なのである。

実はレミリアには、3歳下のエレナという妹がいる。エレナと侍女のペアも同時に出発し、既に影も踏めないほど先に行っていて影も形もない。何故かって?そりゃ従魔車で行ったからさ。エレナは、馬系魔獣のポニタをテイムして、1段階進化させたウォーホースが従魔だからね。パワータイプで馬力が違う。


「 ねぇークライン。暇よ?とっても暇なのよ?だって、ただ歩いてるだけだもの」

「そう明らさまにダラけない。今も歩いてすらないし。おぶさって、ぶら下がっているだけじゃないか。そうしてる間にも良さそうな魔物が居るかもしれないよ?」


とは言いつつ、此処らへんで良さげな魔物に逢うなんて期待薄だ。街道沿いなんてそんなものだ。 一応、近くに魔力は感知している。どうやら魔物が1体で居る様だ。このまま行けば遭遇するだろうが、気にしても仕方がない。余裕で対処出来る相手の様だし、近づいて様子をみよう。


空間属性の俺は、この様に広範囲を認識して感知出来る。空間ごと把握しているので、隠れるのは不可能だ。本来なら膨大になる情報も、額の精霊石によって取捨選択されて必要な情報のみ知る事が出来るのだ。



「あら?あそこに魔物がいるわ。木の陰からこっちを見てるけど、何なのかしら」

「そうだね。あれはゴブリンかな?ツノ付きなんて珍しいね。初めて見るよ」


ゴブリンと言えば、弱い魔物として有名だ。魔物のヒエラルキーで最下層と言っても過言では無い。勿論育てれば強くなる。人型という利点も有るが、それなら他の人型の魔物のをテイムするのが一般的だ。今では自然淘汰され、安全な居住域の近くにしか居ないとされている。


そのゴブリンがこちらに走って目の前まで来たと思ったら、ジッとレミリアを見上げている。ゴブリンは、小さいのだ。平均的な大人の膝くらいまでしか無い。凄くブスッとした表情だが、別に睨んでいる訳じゃない…と思う。


「あれかな、仲間にして欲しいんじゃない?」

『ゲヒッ』

「そうなの。でも、御免ね。ゴブリンは、可愛く無いから」


そうだ。とでも言うように頷くゴブリンは、目線を合わせる様に膝を折ったレミリアに断られて、目を潤ませながら走り去ってしまった。


「別に良いじゃないか。育て甲斐はあるよ?ゴブリンは進化の先が多岐に渡るから面白いらしいし。それに、まだ木の陰から覗いてるよ?」


ゴブリンの進化は、多岐に渡る。オーガや、オーク、鬼人等も元はゴブリンである。ゴブリンの進化した後の個体の子供は、必ず進化後の姿で産まれる。普通の魔物、例えばウォーホースの場合、産まれるのはポニタである。極稀に生まれながらにウォーホースの場合も有るが、確率はかなり低い。因みに、神が干渉して以降どんな魔物でも卵から産まれる様に成ったとされる。


「もぅ!分かったわよ!!そんな三白眼をウルウルさせたって、可愛くないんだから。テイムするから、こっちに来るのよ。こうなったらビシビシ行くからね」


そう宣言され、嬉しそう?に走り寄って来るゴブリンを見て、マゾの気が有るのではと思ってしまうが、そこはスルーしてテイム後の流れを説明する。何せお嬢様は、初めてのテイムなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お嬢様の命令(お願い)が有り得ないのだが @sebasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ