お嬢様の命令(お願い)が有り得ないのだが

@sebasu

第1話

「ねぇ、クライン。あの木の林檎を取らせて」

…取ってきてじゃないのか。


「ねぇ、クライン。少し疲れたから、あの宿に泊まるわ」

……休むじゃないのか。日帰り視察に来た公爵令嬢を無断で外泊は厳しい。


「ねぇ、クライン。今日は、晴れの気分なの」

………知らんがな!取り敢えず、屋敷の周りだけ雨雲を消すか。


俺は、クライン・ウラ・アーガスト。人族が治めるフィルドス王国の子爵なのだが、お嬢様の家である『アス・フィルドス公爵家』の分家の意味合いの方が強い。『ウラ』と付くのは、公爵家の分家の証なのだ。王家が『ファラ・フィルドス』で、その分家が公爵家なのだが、三家ある公爵家で『フィルドス』は1家だけだ。つまり、筆頭公爵家の令嬢たるレミリア・アス・フィルドスお嬢様は、良いとこの姫である。


だが、どんなに良いとこの姫のお願い(命令)でも聞けない事もある。

お嬢様の執事たる俺は、出来る限り願いを叶える事も仕事なのだが、譲れない事もあるのだ。


「ねぇ、クライン。私の従魔になってよ」

……嫌です。と言うか、人として扱って下さい。


「ねぇ、クライン。従魔は諦めるから、代わりに額の宝石を頂戴」

………無理です。取れませんし、取れたとしても嫌ですね。


毎度毎度、飽きもせずに詰め寄って来るお嬢様だが、これは譲れない。そして何時もの如く笑顔でこう言うのだ。

「アハハ……ありえねぇし!!」



そう、俺は純粋な人族では無い。精霊獣というやつだ。しかし、昔は純粋な人族だった。

6歳の時に、珍しい生き物がいると思いテイミングしようとして溺れ、気付けば額に空間属性を示す空色の精霊石が埋まっていた。そして、追い掛けていた白蛇が心配そうな感じ……かどうかは分からなかったが、側に居たので取り敢えずテイムしといた。


精霊は、基本的に寿命など無い存在である。生に飽きると、自らの存在を自然に帰すのだそうだ。稀に最後の道楽として、自我の薄い動物や魔物と融合して精霊獣となり、宿った魔物か動物の本来の寿命分だけ生きるらしい。

本来ならば俺の自我も上書きされて無くなるんだろうが、気まぐれなのか魔法と一般的な大人位の知識だけを与えられて生かされた。


その後、紆余曲折有ったが10歳で例外的に貴族位を貰い、公爵家当主のレクス・アス・フィルドス公からの直々のお願いで、お嬢様の執事兼婿候補になったのだ。


【捕捉説明】


中心島:各大陸からほぼ中心の位置にある島。世界規模での大会やお祭りは、この地で開催される。


フィルドス王国:人が治める大陸の唯一国。中心島から南西の位置にある。竜種の神竜が守護を勤めている。龍神も存在するが、海を任されている。


リベル獣国:獣人が治める大陸の唯一国。中心島から北西の位置にある。幻獣種の神獣麒麟が守護を勤めている。


エルフィナ森国:エルフが治める大陸の国。国だが国王などは存在せず、長老会と纏め役の最長老が代表を務める。中心島から北東の位置にある。妖精種の妖精王が守護しているが、魔大陸に居る妖精女王の事が気になって、あまり身が入っていないらしい。


ドワル首長国:ドワーフが治める大陸の国。三つの部族が大陸を分割して治めているが、競い合ってお互いを高める為であり、仲は良い。全体的な事は、3人の部族長による話し合いで決定している。中心島から南東の位置にある。精霊種の精霊王達が交代で守護をしている。精霊神は魔大陸に居る。


魔大陸(東西):魔物達の楽園。上位種も多数存在する。修行場に良いが人数制限あり。予約推奨。


居住域:村や街の周囲を囲いで覆っている。壁の内側。警備によるパトロールが実施されている為、野生の魔物は出ないと言える程安全な領域。


自然区域:自然のままなので、野生の魔物がでる。油断は禁物の領域。但し、街道沿いは人の行き来があり、定期的な巡回もされているので、あまり野生の魔物は見かけない。


管理区:各大陸で温和な魔物が減り過ぎない様にしている。人工のテイミング牧場等も管理区に含まれる。魔大陸と同じで人数制限があり、案内要員(監視)が付くが親切なので助かる。

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