第18話 予言との答え合わせ

【・・・・灯、鬼灯!】

 遠くで誰かが俺の名を呼ぶ。瞼が重い。エクステしたまつげの上下を一本一本結んだらこうなるんじゃないかってくらい開きにくいのを、こっちも麻酔でも打たれたのかというくらい動きにくい指でもって強制的に開く。

「暗い・・・」

 さっきまで海の上に浮かんでいた夕日は既に沈み、広大な夜空が広がっていた。

【鬼灯! 応答!】

 耳元で再度、怒鳴り声が響いた。顔をしかめながら応える。

「伊那鷺、さん?」

【気づいた?】

 少しほっとした様な声だ。

「えっと、俺、どうなってた?」

 状況が全く分からん。イスカと喋っていて、そこからノアに逢った。多分あれは夢の中だろうから、意識を失っていたのだとは思うのだが。肝心要のイスカは既に対面には居ないし、周りも潮風が寒かったからかすでに船内に戻ったようだ。ここにいるのは俺と、すでに閉店時間なのにまだ帰んねえよと文句言いたげなウェイターだけだ。

【あの時、彼女と話してから、あなた達二人ともが意識を失った。そして五分ほど前、先にイスカが意識を取り戻し、船内に戻っている。なのにあなただけ意識が戻らないので、ずっと呼びかけていた】

 同時に目覚めるわけじゃないのか。それとも、夢に関しては彼女の方が一日の長がある。もしかしたら意識を取り戻す時間も操れるのか? ともかく、目覚めたのなら、やることは一つだ。美女と約束したら、応えるのが男の義務であり権利だ。

「ごめん、心配かけたね」

【・・・・ああ。まったく。心配かけないでもらえると、助かる】

 その微妙な間と細かく区切る様な話し方は、どういう意味を持つというの?

「もしかして、あのまま起きなければ原因不明の意識障害とかなんとか理由つけて、ラボ一直線とか考えてなかった?」

【・・・全然】

「ほんとに?」

【・・・】

 無言が、痛い・・・・。

【冗談はさておき】

 さておいていいような問題でもないが、それよりも差し迫った問題が山積みだ。後で問い詰めるとして、そっちを優先しよう。

「わかってる。次は、俺の身に起こったことについて共有しよう」

 さっきまで見ていたことを、出来るだけ詳細に彼女に伝える。

【未来予知と、他者の記憶を見る能力】

 興味深い、と伊那鷺は唸る。

【ノアの話では、この船全員に死が迫っている、そういうことになる。そして、それを裏付けるような話がある】

 あってもらったら困るんだけどな。でもまあ、早く見つかってよかったなってことで。

【船内を検査していたら、妙なものを見つけた】

「妙な物?」

【最下層の、船倉部分。ちょっと不思議だったので、手近にあった軍事衛星も拝借して、調べた結果・・・】

「待て待て。何借りたって?」

【何って、ただの軍事衛星】

 あなたの『ただ』の基準が分からない・・・・。手近にあった爪切りで爪を切るのと、手近にあった軍事衛星で映像解析するのとがこの娘さんにとっては同じ尺度になっちゃうのか。

【大丈夫、ばれない】

 考えたら負けだ。そういう問題じゃないとか、それこそ今は問題じゃない。

「遮って悪かった。で? 結果は?」

【爆弾】

 ばくだん? ああ、あの料理の種類の一つ? それとも菓子のほ・・・

【あなたは毒性のある物質を美味しく食べる趣味があるの?】

 すみません。

「いやいやいやいや、それでもちょっと待ってちょうだいよ。それ、また選手権の悪趣味で設置されたやつじゃないの?」

 以前それで酷い目に遭ったぞ。この選手権はテレビ中継も入ってるから、お笑い芸人でもやらないような無茶を平気でやってくる。あの時の辱め、忘れるものかよ。

【私もそれかと思い、荷物の搬入情報を確認した。私たちが事前に申請していた物品から、主催者側で用意した物全て。けれどその中に該当するものは無い。また、船底を支えている要所要所に埋め込まれている事も、ちょっと理屈に合わない】

「う、埋め・・・?」

 確か、前に読んだ本で、プラスチック爆弾を柱に穴開けて、そこに詰めて爆破させてたけど。

【設置の仕方は似ている。で、同じように使われたら、底が抜ける】

 底抜けに明るいのと底に穴が開くのとではどっちがタイプ? ちなみに俺は底抜けに明るい方。

「マジかよ。またかよ。そして今度はモノホンかよ」

【可能性は限りなく高い。そうでなければ、私以外に船の監視システムを乗っ取る説明がつかない】

 自分のことを棚に上げてらっしゃるが、そのおかげで異変にいち早く気付いたのだから何も言えない。

【また他に、船内で色々と不審な動きがある。船内の警備や案内を担当していたスタッフが、少しずつ減少している】

 減少してる?

【代わりに、登録されていない人間が乗船している】

「乗船って、出航中のこの船に?」

 沖合一キロくらいありますけど。もとからどこかに潜んでいたとかか?

【それもある。が、半数以上は外から】

「外からって。だから周りは海・・・」

 そこまで言って、いやなことに気付いてしまった。厳重な警備をかいくぐって、誰にも知られずに船内に爆弾を仕掛けるような連中がここにいる。ならば、水中から侵入する方が簡単なんじゃないか?

「季節外れの蛙男が、大量発生したってのか」

【そう。そして、お約束のように重火器を持ち込んでいる】

 ああ、やだやだ。未来予知能力も無いのに展開が見えちゃうぜ。

「ちなみに、そういう報告は?」

 この船の責任者、船長とか、そういうのに。

【残念ながらテンプレートのように、制圧されている】

「ああもう!」

 たまらず叫ぶ。どうして、どうして毎回毎回俺がこんな目に!

「すぐ戻る! 他のみんなにも伝えて!」

【了解。無事の帰還をお待ちしている】

 椅子を蹴立てるように立ち上がった。はずみで机にぶつかった時、机の上で何かが転がる。百億の置き土産が転がっていた。



「ただいま」

 伊那鷺の部屋をノックする。ガチャリと鍵が外れ、中から伊那鷺が顔を出した。

「あれ? みんなは?」

 一番乗りだったことに驚く。カフェのあった場所は船尾で、俺たちの客室は中央より少し前よりだから、てっきり最後だと思っていた。

「少しうかつだった」

 ぽてぽてと室内に戻るなり、席に座ってパソコンの前に座る伊那鷺。周りは自分で持ち込んだのか、十台のモニターとサーバーが設置されていた。

「あなたとの通信ののち、全員に連絡しようとしたのだけれど、タイミング悪くジャミングがかけられた。かといって完全に除去してしまうと不審に思われるので、ジャミングの周波数自体を弄って私に都合のいい帯域にしておいた」

 もう何でもアリだなこのお人。

「私はこれから外部へ連絡する。なので、あなたは他のみんなに呼びかけておいて。ネクタイのマイクの裏側にダイヤルがある。1がアイシャ、2がサヴァー、3がヒナ、4が凰火。全員いっぺんにやると、逆に他の人間の無線に傍受されるかもしれないから、単独で」

「了解」

 それくらいなら手伝える。ダイヤルを回す。まずは1、アイシャからだ。彼女の近くにはサヴァーもいるから一石二鳥だ。気を利かせてくれたのか、伊那鷺がテレビ画面に四人の姿を映してくれた。

「アイシャ? 聞こえる?」

 画面上のアイシャが耳元を押さえる。

【あ、繋がったわよサヴァー】

 繋がった?

「どうした? 何かあった?」

【どうしたもこうしたも。さっきから何度もカガリに呼びかけてるのにちっとも繋がらないんだもん】

 呼びかけてた、ってことは。何かしらの事態が発生してるってことか?

【そう。そうなの。気づいたのはサヴァーなんだけどね。彼女から聞いてもらえる?】

「あ、待った!」

 向こうでサヴァーが一斉放送をしそうだったので止める。

「そのまま、アイシャの通信機をサヴァーさんに渡してもらえる? 伊那鷺さんが通信の調子が悪いからって」

【あ、そう言う事ね。ちょっと待ってて】

 がさごそと耳元でノイズが流れた。画面上ではイヤリングを外したアイシャがサヴァーにそれを渡している。

【鬼灯様】

「はい。サヴァーさん。聞こえてます。何かあったんですか?」

【あった、というより、ありそうな感じです。周囲の人員配備が少しずつ変わっています。また、彼らはおそらく何らかの武器を所持しているものと思われます】

 パーティ会場に、すでに入り込んでいる。まずい。思った以上に早い。

【驚かない、ということは、何かしらの情報をそちらでも掴んでいるということですね?】

「うん。そのことでいくつか相談したいから、二人ともこっちに戻ってきてもらえる?」

【かしこまりました】

 がさごそ、とまたノイズからの

【もう戻らないと駄目なの?】

 つまらなそうなアイシャ。

【まだこの船内回り切ってないんだけど】

 これまで寝る間もない程の英才教育を受けてきた彼女にとっては、こういうお祭りイベントはおそらく初めてだ。それを取り上げるのは正直心苦しいが、緊急事態だ。なにより大統領令嬢である彼女の命は、こういうのを天秤にかけるべきではないのかもしれないが、一般人、たとえば俺よりも重い。

「すまん。けど『お前のため』なんだ。何もなければ何もないですぐに開放するから」

【・・・・・・】

 しばしの無言。彼女の葛藤を見て取れる。

【・・・し、仕方ないわね! そこまで懇願されちゃあ、私も鬼じゃないわ。『あなたのため』に戻ってあげる。今あなたの言う事を聞いてあげるんだから、今度、あなたが私の言う事を聞くのよ?】

 妙に声が弾んでいる気がするが、気のせいだろう。きっと、俺に罪悪感を抱かせないためにわざと明るく振る舞っているのだ。気丈な子だ。

「了解。俺の出来る範囲でよければ、だけどな」

【約束よ? 約束したからね? 破ったらどうなるかわかってるわね】

「守るよ。必ず。だから今は」

【うん! すぐに戻るわ!】

 サヴァー、書面を用意して! それを最後に通信が切れた。早まったかなと思わないでもないが、仕方ない。さて、次は、と。

「聞こえるか? ヒナ」

【んぁ? ふぇんぷぁい?】

 まるで口に一杯食べ物を詰め込んでいる状態で喋っているかのようだ。

【なんふぁひょうっふ?】

 もごもご、もごもご。あ、何か食ってるわコレ。カメラの方を振り返った彼女は、ハムスターのように口を膨らませていた。

「とりあえず、水を飲め」

 んぐ、んぐ、んぐ。

【ぷはぁー!】

 おっさんか。

【何かあったんすか?】

 改めて言い直してきた。

「飯食ってるとこ悪いんだけど、すぐに戻ってきてくれないか」

 ええー、と非難の声が上がる。

【そりゃないっすよ先輩。私ここでの食事楽しみにしてたんすよ? むしろ食事メイン選手権サブくらいっすよ? まだ二軒しか回れてないのに~】

「二軒回りゃ十分だろ? ちと緊急事態なんだよ。悪いとは思うけど、すぐに・・・」

【何言ってんすか! レストラン、何件連なってると思ってんすか! 三日でそれらを制覇しなければならないんすよ!? 御馳走を前にした私は、いかな先輩であろうとも止められはしないっす!】

 どこまで食い意地張ってやがる。下手すりゃ全て閉店する可能性があるってのに。

「はあ、この手だけは使いたくなかったんだが」

 緊急事態だ。仕方ない。

【ふはははは! どんな手を使おうが無駄無駄ァっす!】

「・・・今まで言ってなかったんだが。俺は、あなたのお母様とメル友です」

 あれだけ騒がしかったヒナが、完全に沈黙した。画面上では、石像と化したヒナがいる。

「職場での勤務態度とか、良く聞かれます。あの子はすぐサボるから、その時はすぐに言ってね? 他にも、あの子が何か迷惑かけたらすぐ言って。私から注意するから、と申しつけられています」

【・・・・・・・・・・】

「これまでは、まあ、多少の遅刻、突然の休み、シフトの変更、これらの我儘があろうとも、問題なしと報告していました」

 プルプルとヒナが小刻みに震えだした。顔面は蒼白だ。

 ヒナの母は優しく上品なご婦人だ。ヒナに対してもそんなに怒ったことがないとは本人談。ただ、怒らせるととんでもなく怖い、というのがヒナ談。実際にお目にかかったことはないが、あのヒナがそこまで恐れるのだから相当だろう。

「もう一度、聞くけど。すぐに戻ってきてくれる、カナ?」

【可及的速やかに戻るっす! ですのでどうか! どうか母さんにだけは!】

 怯えきった表情でヒナがダッシュ。画面から消えた。さて、これで残るは一人。

「吉祥院さん? 聞こえる?」

【何だ】

 すぐさま応答があった。

「少々厄介なことになった。申し訳ないんだけど、すぐ戻ってきてくれない?」

【何故だ】

 一言ずつしか喋んねえのかってくらい端的に返されました。普段の俺ならここですごすごと引き下がるが、なにぶん緊急事態。もうちょっと踏ん張る。そう、いやだ、ではない。何故だ、だから。多分純粋に疑問なだけなのだ。理屈が通れば彼女は言う事を聞いてくれるはず。

「伊那鷺さんが船の異変に気付いた。すでに館内のシステムはほぼ掌握され、操舵室等は占拠されてるみたい。ジャミングがかけられている中武装した連中が続々と乗船中で、極めつけは船に爆弾が仕掛けられてる」

 ほお、と珍しく彼女が目を丸くした。

「というわけなんで、危険だし、これからどうするか相談したいんで戻ってきてほしいんだけど」

【断る】

 なんでやの。

【貴様は危険だからと言って、このまま私に尻尾を巻いて逃げろと言うのか?】

「いや、そういうつもりじゃなくて」

 戦略的撤退と言いますか。

【戦略性のない撤退はただの時間のロスだぞ? それよりはここから打って出た方が良いのではないか?】

 打って出るとな? 隣で伊那鷺も目を丸くした。

この発想は無かった。さすが吉祥院というべきか。そして、彼女なら自分一人の身なら容易く守れるのだろう。実力と経歴に裏打ちされた女は言う事が違うぜ。

 しかし、しかしだ。相手は重火器だって持っているし、万が一ということだってあり得る。

俺は、このチームの中ではサヴァーに次ぐ年長者だ。必要ないと言われるかもしれないが、鷹ヶ峰や店長から預かっているつもりで、引率者ポジションを勝手に自分に課している。全員無事に帰らせることが俺の役目だ。だからいくら実力があったって、無茶をしてほしくない。ということを言って聞かせて説得を試みる。が

【ならば貴様は、私がここで動く以上のものを提供できるのか?】

 ・・・これだよ。何で心配してんのにこんなに衛星軌道上から物言われなあかんのよ。そりゃあね、あんたからすりゃ俺の心配なんざいらん世話だろうよええ勝手なことしてますよ自覚も有ります。だからってそんな言わんでもいいじゃないのこっちだっていろいろ考えてんだよ必死こいてさあ。全員で共有したい話もありますし? なによりサヴァー。おそらく吉祥院に匹敵するであろう彼女と連携を取ってもらいたいし作戦だってタイミングが命だ顔合わせて話し合う方が効率的なんだよ全員にいっぺんに話せねえ今ならなおさら。大体何であいついっつも偉そうなんだよこう見えても一応俺のが年上だぞ年功序列がすべてとは言わないけどさあそれでも多少の尊敬とは言わんけど普通に接するくらいできねえのかてめえまだ高1だろが履歴書見て無茶苦茶ビビったよ「鬼灯・・・?」その貫禄でちょっと前まで中学生かよ人体の神秘だな馬鹿たれがつうかその過剰とは言わないまでも自分の力を過信して一回失敗してんだろうが何を隠そう前回選手権の決勝戦だよ感情に任せて突っ走ったから俺みたいなのに負けんだよ「鬼灯、鬼灯?」この負け犬が俺に負けたんだからたまには素直に従いやがれ「鬼灯」なんだよこっちはあのクソ頑固な岩石頭の固定観念をどうぶっ潰してやろうか無い知恵絞って考えてんだよ。

「鬼灯。出てる」

「出てるって、何が」

 知恵熱のことか? はっはぁ体感的には四十度を突破してるぜ。ったく、さっきから伊那鷺が五月蠅い。こう見えて結構忙しいってのに。声に不機嫌さが滲んだ。伊那鷺はそんなこと気にもせず、端的に答えを述べる。

「声」

 ヴォイス? ・・・・・・・・・・・・・・・まさかとは思いますが、いつから、どういった内容のがでしょうか?

「さっきから、愚痴っぽいのが。全部」

 ゴゴゴゴゴ

 モニターから何かビリビリしているものが発せられているのは、きっと電気じゃない。

 汗が、止まらない。

 震えも、止まらない。

 恐る恐るなんて言葉では足りないくらいの恐怖で持って、横目でちらと吉祥院の映るモニターを見た。


 目が合った。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 情けないくらい怯えて、甲高い悲鳴を上げた。ちびったかと思った。

 心胆寒からしめる、とはこのことだろう。

 彼女は笑っていた。憤怒ではなく、無表情でもなく、ただ口を三日月型に薄く歪めて、見えているわけないのに、画面越しに俺の方を見て笑っていた。ただ、その目だけが。

ああ、深淵を覗き込むなら覚悟せよとは誰が言ったか。覗き込むということは、深淵に覗き見られているということだ。

【・・・・わかった。すぐ戻る】

 今まで聞いたことのないほど、穏やかな彼女の声がイヤホン越しに返ってきた。

【そこを動くな】

 プツン、ツー・・・・・・・・

ガクンと膝から崩れ落ちた。やばい、どうしよう。土下座で待ってたらいいのかな?

「彼女も大分丸くなった」

 伊那鷺が作業中のパソコンモニターから目を離さずに言う。

「どこがだよ。そりゃまあ、怒らせた俺も悪いんだけどさ」

 その前の方からすでに、彼女は俺の話を聞くつもりはなかったのだから。

「そうでもない」

 しかし、伊那鷺は否定した。

「少し、思い出してみるといい。彼女の話し方は、決して拒絶ではなかったはず」

 ―ここから打って出た方が良いのではないか?―

 ―私がここで動く以上のものを提供できるのか?―

「あれか?」

 確かに、一応こちらに確認しているような口ぶりだと受け取れないでもない。かなり分かり難いが。

「以前の彼女なら、必要な情報が集まったらその時点であなたとの連絡を絶っていたはず。そうしなかったのは、あなたの話を聞いてからという思考が働いたから」

「そう、かぁ?」

 到底信じられはしないが。けど、もし真実なら、それをきっかけに彼女とはもう少し仲良くなれるかもしれない。

「けど、おそらく。今のでその小さな芽は潰えた」

 ですよね。俺自身がメッタメタのギッタギタに踏み荒らしたもんね。そんな土地に花なぞどうして咲こうか。

 そうこうしているうちに、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。さっき呼び出した四人が戻ってきたようだ。がちゃり、とノブが回され

「お待たせリツ! あなたのために、仕方なく戻ってきてあげたわよ!」

 飛び跳ねるようにアイシャが。

「それだけは! それだけはご勘弁をぉ!」

 泣き叫びながらヒナが。

「鬼灯ぃっ!」

 怒れる吉祥院が。

 同時に三人が部屋に飛び込んできて、両手を広げて迎えればいいのか椅子に座ってふんぞり返って待てばいいのか土下座してひたすら許しを請えばいいのか迷っていたら


 タァー・・・・ン


 殷々と音が響き渡る。

全員が同時に固まった。運動会であればスタートの合図だが、ここで始まるとすれば、それの意味するところはただ一つ。

 モニターの向こう側、パーティ会場で。一人の男が、手から白い煙を立ち上らせていた。シガレットなんてダンディな物じゃない。

「なん・・・すか、あれ・・・」

 ヒナがモニターを指差す。恐れていたことが、現実に起きてしまった。

 いや、これこそが、ノアの予言した運命か。

 豪雨が大地を打ち付けるように、悲鳴がスピーカーを乱打していた。

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