第2話 ギルド結成 ー 1

 ダンジョンから一番近い村の酒場、ハイガリンの酒場は庶民の憩いの場であると共にダンジョンへ挑む冒険者がギルドを組むには絶好の場所である。村の中では一番大きい木造建築物であり、一階では村の人間や冒険者が飯とエールを飲みかわし、日々の農作業の疲れを癒やしながらも酔った男達の笑い声が絶えない。時折泥酔した男達の喧嘩が起こるがそれすらも客にとっては酒の肴である。外野が野次を飛ばし、男達の喧嘩が大事になりそうな所で屈強な酒場の女将が男達を殴り飛ばして酒場から追い出す。この一連の流れがハイガリンの酒場の楽しみの一つでもあった。


 酒場のカウンターでは女将と従業員が忙しく働いている。料理の注文に会計に掃除と、従業員が引っ切り無しに動く横で女将はやってくる冒険者達の対応をしている。ギルドを求める冒険者は、リストに種族、名前、職業、簡潔に自己紹介を述べて酒場のリストに載せてもらう。自己紹介と言ってもダンジョン歴や得意魔法位の事しか書かない。

 その逆、ギルドの方から冒険者を募集している場合もある。酒場内の掲示板に募集している人数と職業、ギルドメンバーの説明、そしてダンジョンのどの階層まで何日潜るのかを書いた紙を張り付けておく。それを冒険者が見たり女将がリストと照らし合わせて紹介をし、条件に合えば無事ギルド結成となる。


 酒場二階の一室で六人の男女が一つのテーブルを囲んでいる。男四人に女が二人とギルドの編成としてはさして珍しくもない。


 ギルドの編成として一番多いのがが六人でのギルド。ギルドリーダーの前払い金と安全面を考えての昔からのやり方だ。勿論これ以外にも三人や四人で潜ることもあれば八人の大所帯で潜ることもある。前者は浅い階層に潜るダンジョン初心者や深く潜る熟練した冒険者に多い。雇用費、装備品や日用品等のアイテム費も浮くしその分良い装備を揃えることができるからだ。

 後者は探索を目的とした冒険者よりも別の理由で潜るギルドに多くみられる。例えば救助ギルド、これは何らかの理由でダンジョンの中で全滅してしまったギルドを地上に連れて行ったり蘇生魔法で生き返らせる事をで収入を得るギルドである。救助してもらったギルドは謝礼として金を払う。相場は大よそ一人頭500Gといったところだろう。

 調査目的のギルドだと多くの学者や神官が潜ることになるため大所帯になる。ダンジョン内の構造や地図の制作、モンスターの生態系調査とまだまだ解明されていない謎が多いからだ。


「それでは面子の顔合わせといこうぜ、じいさん」

「そうじゃな。わしがギルドリーダーのヤクリンク・バルモアじゃ。こっちはひ孫のシーフォ。今回は君達にダンジョン調査の護衛を頼みたい。報酬は前払いで1500、戻ってきて1500の合計3000Gを払おう」

「リーフォ・トーカです……よろしくお願いします」

 部屋の上座に座る白髪のノームの老人が室内の全員に声をかけ、挨拶をする。それに合わせて隣の少女も頭を下げる。老人は王国教会神官のローブを羽織っており、右肩から勲章をぶら下げている。少女は伸ばした白の長い前髪を垂らし、杖を抱きながら伏し目がちに座っている。偶に顔をあげても隣のヤクリンクを見るだけで誰とも目を合わせようとしない。

 ノームという種族は古くから四大精霊の加護を受けながら生活をしてきた種族で、体がヒューマンの半分ほどの大きさで手足も太く短い。エルフやドワーフと同じく長寿の種族で、平均寿命は200から300歳とされている。長く精霊達と過ごしてきたことで信仰心が厚く神官や学者として生計を立てるものが多く、ヤクリンクもその学者の一人だ。


「今回わしは地下4階までの古代文字の記録をしたい。1階と2階は他の調査団であらかた調査済みだろうから、本格的な調査は3階からじゃな」

「記録? 調査目的なら学会側から公式の調査団は出てるだろう? なんで教会直属の神官様が俺たち冒険者に頼むんだよ」

 ハーフレッグスの青年が疑問を問いかける。それを聞いたヤクリンクはハッと笑い肩をすくめる。

「あんな知識だけを無駄につけた老いぼれ連中がピクニック気分でダンジョンへ潜っている調査団なんてまともな調査なんて出来ているわけがない! じゃからわしは独自に潜っていたんじゃが、今回4階に潜るにあたって知人だけじゃ少々力不足でな……。今回実力のある冒険者を雇うことにしたのじゃ」

「なるほどね。それで、あなたのひ孫さんは実力のある冒険者に入るのかしら? 見たところ装備が真新しいものに見えるのだけど」

 褐色肌の女がリーフォの装備を一瞥する。確かにリーフォが身に纏っているローブや手にしている杖には傷や汚れが殆ど見受けられない。冒険者にとって装備の汚れはある意味自身の冒険者としての歴を示すものだといってもいい。ピカピカのナイフを使っている冒険者は、手入れ熱心だとしても新米として思われることが多いため、わざと汚れや傷を残したままにするのが冒険者の中での不文律だ。

 女はリーフォの装備に汚れが見当たらない事で初心者だということを見抜いたのだ。

「確かにお主のいう通り、リーフォはダンジョン経験がない初心者じゃ。だから今回大金を出してプロである君たちを求めていたわけなのじゃ。一人ぐらい初心者がいても仕事をこなせるプロをな」

「すいません……、私が無理を言ってついてきたんです」

 リーフォが謝罪の言葉と共に頭を下げ、再びうつむいてしまった。


「まぁいいんじゃないの。今このご時世俺たち冒険者の食い扶持すら危うい世の中だ。こんだけ貰える依頼もどんどん少なくなってきてるし、あったとしても王国直属の調査隊ぐらいで倍率が高いしな。一人ぐらい初心者の奴が居ても気にしねぇよ、俺の仕事を邪魔しなければな」

「ドハハ、ワシも構わんぞ。嬢ちゃんに魔物を近づけさせなければいいだけだからな。ワシに任しときな嬢ちゃん」

「俺も気にしないぞー、俺も叔父貴みたいなプロじゃないしアンタと同じだよ、同じ――ってぇ!」

 大声で答える少年を拳骨で黙らせるドワーフの男。ヒューマンの少年は頭にたんこぶを作りながらテーブルに突っ伏した。

「私はもう少し考えさせて、魔法使いなんてパーティーの要の一人なんだから安易に決めることはできないわ」

「わかった。では、次の紹介をよろしく頼む」


 ヤクリンクは左隣の青年に紹介を促す。

「俺はソットだ、ソット・ティーリン。呼ぶときはソットでいい。主に鍵師をしている。戦闘も出来ない訳じゃないがあまり期待はしないでくれ、本業じゃないからな」

 ソットはやけに芝居がかった大げさなお辞儀をする。動きはかなり様になっていて、しっかりと着飾ったらそれなりの役者に見えたであろう。しかしこのボロの宿部屋には不釣り合いな動きだった。

 ハーフレッグスはヒューマンをそのまま縮小したような種族で身長も手足も細く平均的なヒューマンの半分程になる。体の大きさでいうならヒューマンとノームの間に位置する。その点体重が軽い為トラップを作動させずに移動出来たり、耳も大きい為音の聞き分けや感覚がとても鋭い。ソットの様に鍵師や盗賊に一番向いている種族と言える。

「質問! 鍵師ってなんだ?」

 テーブルに突っ伏していた少年が手をあげて質問する。それを見たソットはやれやれとため息を吐きながら肩をすくめる。

「そっからかよ……。鍵師ってのは主にダンジョン内の罠の解除や扉の鍵を開けたりする奴の事を総称して呼ぶんだ。ダンジョンってのは常に危険と隣り合わせで行動しなきゃならない、他には中は入り組んだ迷宮構造になっているから地図の書き込みも俺の仕事だな。ここ最近ダンジョンの構造が教会側が調査した時と変化している場所が多いらしい、古の魔女だかなんだったか忘れたが頭のおかしい物を作ってくれたもんだぜ。まぁそのお陰で俺は仕事にありつけるんだけどな」

 自慢げに説明をするソットに大きく頷きながら相槌を打つ少年、その姿に気を良くしたソットは更に喋り続けようとするが流石にヤクリンクが制止する。

「おっと、悪い悪い。ついつい喋りすぎちまった。次、よろしく頼むぜ」

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ダンジョンズ・キャプチャー まつやに。 @Matsuyani4423

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