第10話
「ふっ、何を呆れておる。我が筋肉のしもべ達よ!その脆弱な二人を粛正せよ!!」
徒無の号令とともに、周りでポーズをとっていた哀れな筋肉の犠牲者達が、俺達に襲いかかって来た。ちい、マッチョ同士の交感効果もあるのか!
俺は透かさず黄金のバックルが付いたベルトを引き抜き、電光石火宜しく、マッスル軍団を瞬く間に撃退した。
いくらマッチョマンになっても、所詮は一般人、俺の敵じゃ無い。
残るは徒無一人。大人しくお縄になれ。
「ぬぅわぁっはっはっはっ!流石は一流の問題処理屋!
しかし、甘い、甘い!!それ程度の力では、このわしの敵では無い!――食らえ、『ゴッド・ボイス』ぅ!!」
徒無は抱えていたミサイルポッドを地面に降ろすや、左手を腰に当て、右手を自分の口元に寄せる。
まるで、銭湯で風呂上がり後に、ビン入りのコーヒー牛乳を飲む時のお約束ポーズの様に見えるそれは、しかし俺の想像を逸脱した所業を生み出した。
「ら゛――――う゛り゛ぃ゛――い゛――――e゛!゛!゛」
徒無の奇声が、まさか凄まじい破壊力を伴った衝撃波になろうとは!衝撃波は正面の道路のアスファルトを抉り飛ばし、一直線に俺目掛けて襲いかかって来た!!
だが、俺の運はまだ尽きていない。丁度、足下に良い『盾』が転がっているじゃないか、ラッキィ!
俺は咄嗟に、まだヒクヒクと悶絶しているさぶの首根っこを得物のベルトでからめ捕り、迫り来る『ゴッド・ボイス』の衝撃波目掛けて放り投げた。
さぶの巨躯は立派に盾の役割を果たした。
耳元でダイナマイトを爆発させた様な凄まじい轟音と共に、衝撃波を霧散させて宙を舞った。
この激突音から推測するに、たった一声の衝撃波で、古い雑居ビルぐらいなら木端微塵に出来る破壊力を備えているだろう。
……なのに、さぶの身体にかすり傷一つ負わす事も出来ないとは。
あの野郎、撥ね飛ばされて道路に墜落して、巨大なクレーターまで造ったのに、未だ快感で悦に浸ったままだ。まぁ、タフで実に有り難い。
「ぬぅ~~! 何と無茶苦茶な!」
無茶はお互い様だ。一気にケリを付けてやるぜ!
俺は得物のベルトを再びズボンに通し、徒無に向かった。
俺はコートを脱ぎ捨て、船乗りの冒険者だった御先祖様から受け継いだ、家宝の黄金のバックルが付いたベルト、『魔法帯(マジック・ベルト)』を一気に絞める。
すると、丁度、黄金のバックルの裏にある俺の丹田が刺激され、自然界のエネルギーを凄まじい勢いで吸収し始めた。
果たして俺の身に何が起こるか。
――ベルトに絞られた俺の上半身を構成する筋肉が、自然界のパワーを吸収して一気に膨れ上り、
さぶや目前の徒無など足許にも及ばぬスーパーボディビルダーに変身するのだ!
「な?ナ?Na!!?」
余りの事に、流石の徒無も目を白黒する。
そして突然、涙を流しながら、
「………う、美しいっ!!」
やっかましぃわぁぁぁぁ!!
横浜ベイブリッジを一撃で木端微塵にした事のある俺の『超・鉄拳』は、徒無の足下で乳白色の煙を吐いていたミサイルポッドとカブキ町一帯に立ち込めていたB兵器の煙もろとも、感涙にむせぶ徒無を遥か上空彼方まで吹き飛ばし、お星様に変えたのだった。
やれやれ、全く、とんでもない相手だったぜ。
所詮、俺の敵じゃあ無いが、二度と相手にしたくない。拳がバッちくなるからな。
俺は『魔法帯』を緩めて元の姿に戻ると、雑居ビルの玄関で余りの事に腰を抜かしている美人の依頼人に歩み寄り、にこっ、と微笑んでみせた。
* * * * * *
何ともまあ、目まぐるしい事件だった。
事件解決から一週間後、俺は事務所のソファでごろ寝しながら、あの事件を振り返っていた。
この一週間、実に波乱に飛んでいた日々であった。
僥倖にも、新型B兵器の解毒薬を記録したストレージが無事であった為に、新型B兵器によってマッチョマンに変えられた人々は、事件当日の晩より、量産を開始した解毒薬で全員無事元通りになったのだが、製造された必要数の薬を投与し終えるまでの三日間、俺一人で、全員を『魔法帯』を振り振り、調教しなければならなかったのには参った。
いくら、さぶ(ケダモノ)の扱いに慣れていても、三百人以上のさぶを相手をしなければならないとは、生き地獄も良い処だぜ、全く。
でもまあ、何だかんだ言っても、国からのお仕事だ、二、三ケ月は遊んでいられるくらいの報酬を受け取ったのと、一昨日の夜、倉橋三佐からたっぷりと美味い報酬を貰えたので、良しとしよう。綺麗な肌の佳い女だったぜ。
あと、徒無の事だが、やはりというか、俺の『超・鉄拳』を食らってもくたばらなかった。
再びカブキ町に落下してきた所をお縄になったのだが、野郎、どう言う訳か、借りてきた猫の様に、すっかり大人しくなっていた。
特殊部隊の隊員達に睡眠学習――と言っても、毎晩彼らの寝込みを襲って、その耳元で
「マッチョはナイスガイ、マッチョは最高、マッチョはBerryGood!」
とかほざいて囁き続けただけなんだが――したという大胆不敵さ(?)は、その姿からは微塵も伺えなかった。
でも、徒無が無事でなかったら、新型B兵器の犠牲者達が元に戻れたかどうか。
解毒薬のデータを記録したストレージを大事に持っていたからこそなのだが、しかしそれを差し出されて、俺も倉橋三佐も流石に初めは受け取る事を躊躇った。
何せ、少しイカ臭い上に生暖かくなっていて、とどめにストレージのシャッターに縮れた太い毛が挟まっていた日にゃ、さぶでもない限り、誰だって触りたかねぇぜ。
色々あったが、自衛隊にコネも出来たし、めでたし、めでたし。
…………なのに、今回の事件の所為で、頭痛の種がひとつばかり増えてしまった。
「「兄貴ぃ~~~!!」」
えぇい!ステレオで騒ぐな、暑苦しい!!
あの事件で書類送検後、懲戒処分で自衛隊をクビになった徒無が、何と俺を慕って事務所に転がり込んで来たのだ。
刑務所に叩き込めば良いのに、しかし、この筋肉莫迦を調教できる人間がこの世に一人しかいない、と言って、国のお偉いさんたちが俺に押し付けたのだ。
いくら追い返しても、徒無の野郎、自分の意思でしつこくやって来る。何てこったい。
更に最悪な事に、あのさぶと意気投合したもんだから嫌になっちまう。
挙げ句の果てに、無敵、不死身の天下御免・『聖マッスルブラザーズ』と名乗り、俺の事務所に毎日入り浸っていやがる。
お陰で俺の事務所内は、蒸せる様な暑苦しさを生み出す奴らの体温放射が相乗化された事で、温度計が沸騰するくらいの超熱帯気候に変っちまった。
「「兄貴ぃ~~愛しているよぉ~~!!」」
……誰か、何とかしてくれ(号泣)
おしまいだ、おしまい。
筋肉都市 arm1475 @arm1475
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます