6話

「クッソォォ!!ッ__あ"あ"あ"あ"あ"!?」

さっきからこの調子だ。俺をこの世界から消そうとしているのが分かる。

魂を燃やされている。そんな感覚だ。

……考えたくもないが、もしかしたら本当に燃やされているのかもな。

「いけない。あのままじゃ存在が抹消されてしまう!……でも、どうすれば」

セレーネーが何か呟いている。その姿は焦っているように見える。

女神様もお手上げじゃあ、俺には消滅の道しか残っていないのか。

「手をお貸しください。セレーネー様。この状況を打破してみせましょう」

龍孤がセレーネーに話を持ちかけている。何をしようとしているんだ。

今、俺達は魂だけだぞ。

龍孤がこちらに近づいてきた。そして片膝を付いて伝えてきた。

「まだ、助かる。君はセレーネーだけを考えていればいい」

「ど……うい…う……こと……だ」

意識を保つのも辛い中、どうにかして絞り出した声でそう言った。

「喋らずに。ただ、心の底からセレーネーを考えて」

は、心の底からだと?

ッ___!痛みが増してきている気が。……やるしかねえか。


集中すると、徐々に心の中に声が聞こえた。

脳に直接話しかけられたような、毒のある感覚ではなく、その……なんて言うのか。

全身に話しかけられている胎児のような、温もりがある様な……包み込まれているような、全て似たり寄ったりな気がするが、そんな感覚だ。

痛みもいつのまにか消えていたようだ。


”汝、東堂愛護とうどうあいごは我、ギリシアの神セレーネーを配下に置き、この世に平定をもたらすことを誓えるか”


”何でもいい誓ってやる”


”汝に我の権限を与える。我は汝の命を喰らう。それでも汝は力を欲するか?”


”……力、が……欲しい”


”契約を結ぶ。

我、セレーネーは汝、東堂愛護の守護神の一柱として仕えることを誓う”


”契約を結ぶ。

我、東堂愛護は汝、セレーネーに命を捧げることを誓う”


””契約リンク!””


契約リンクした瞬間、俺は魂が軽くなるのを感じた。そして、徐々に体が重くなるのを。

目を開けて、周りをみると元の遺跡……迷宮にいた。三人共にだ。

左手に触れている物を確認すると、それは本だった。

題名なし・未完成エラーコード11

と、不格好なギリシャ文字で書かれていた。

表紙には先程の神殿(?)と、セレーネーの絵が描かれていた。

……中心ではないんだな。

ふと、笑みがこぼれた。苦笑だったかもしれない。

龍孤が多分何か魔術でも使ってくれたのであろう。体に有った傷という傷が跡形もなく消えている。

あとは俺の膝の上に頭を乗せて寝ている春香にも、感謝をしなければいけないのだろう。何をしてくれたかは分からないが、もしかしたら何もしていないかもしれないが、心配はかけているだろう。

「……セレーネーはどうしたんだ。契約とかなんとかをしたとは覚えてるが」

なんでだか思い出せない。俺が死にそうになって、契約をするかと聞かれたのは覚えている。答えはたしかYESだ。

……分からん。

『どうしましたか?ご主人様マスター

「ッ__うああ!?……え!?は?何っでお前がいんの」

驚きの余り下がろうとしてしまった。後ろは壁だから頭をぶつけただけだが。

結構痛い。


ゴチンッ__


何かが硬い床にぶつかったらしい。代わりに膝から温もりが消えた。

……ということは、まさか。

「……ん?どーしたの、愛護。また龍孤に負けたのー?」

はぁ、不覚にも春香を起こしてしまったらしい。

頭に異常がないと見える。マジで、良かった。

そして寝起きとはいえ負けたとは失礼な。今だったら良い感じに勝負して最後はK.O.でパーフェクトされるわ。いや、負けるのかよ……。

『一人芝居ご苦労様です。マスター。私に関しては説明いたしましょう』

よろしく頼む。というのと、体があるという安堵で気持ちがゴチャゴチャしている。あと気になるのは、

脳に直接話しかけられるのか。しかも見えない&心を読まれるという特典付きで。

はぁ……今日は厄日かもしれん。最悪だ。

という三点セットだけだな。

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