第2話

俺はあの後様々な準備をして、普段より早く床についた。しかし、どうしたものか。予定時刻の3時間も早く起きてしまった。二度寝するのは気が引ける。かといって散歩するには暗い空である。はてさて、本当にやることが無くなってしまった。ちなみに言うとこの世界は一分60秒、一時間60分、一日24時間、一ヶ月28~31日、一年12ヶ月の単位で進んでいる。基本は朝0~15時まで、夜16~24時までとなっている。

……よし、本を読もう。この世界の知識も良いのだが、遺跡ということだ。神話の知識や昔の言語が役に立つかもしれない。たしか地下部屋にあった気がする。今すぐに行こう。

 読み始めてから体感時間で約2時間、実際の時間で1時間57分。読んだ本の数は19冊、結構読んだ方だな。さて、そろそろ朝食を準備しますか。

……にしても、親に気づかれずにどうやって作るんだ。昨日のうちに準備した物の余りでいいか。

 もう行かないと間に合わねえ。そろそろ行くか。

……親には悪いけど、行ってきます。俺は最大限音を立てないように扉を開けて出て行った。

少し歩くとⅨ号寒帯広場に着いた。途中で食べ物を狙ってくるチンピラや捨て獣が襲ってきたが、持ち前の運動神経を駆使し逃げだしてきた。…あいつらは襲われて無いだろうか?心配だ。

予定時刻を30分過ぎたが一向に来る気配がない。しかも周りに人の気配すら無い。これに関しては背に冷や汗をかく。俺はゆっくりと警戒心と心拍数を高めていく。自己防衛のためである。俺は鞄から短刀を取り出s「わっ!」咄嗟に振り抜いた。

「うおおっ!?ちょ……ちょっとタンマ!待って!WAIT!」

「危なっ!ちょ……いきなりナイフは止めようよ」

振り抜いた先には両手を前に出し、一生懸命俺を止めようとする春香はるかと、両手をバンザーイと降参のポーズをとり、ぎこちない笑みを浮かべている龍孤りゅうこがいた。それを見て俺は短刀をケースにしまい、警戒心と心拍数を徐々に下げていく。

「何だ、お前らか。どこぞの馬鹿野郎だったら迷わず殺してたぞ」

「何それ怖いんだけど。今から遺跡行くけど巻き込まれそうで嫌なんだけどぉー……」

「えー、行くの怖くなっちゃったー。だってこんな奴が近くにいるんだもーん」

棒読みで言う二人。さすがにこれは呆れる。

「もっと抑揚つけようぜ。……で、遅れた理由と周りに人気がないのは?分かる?」

「……あー、えーとぉ。そのぉー……ねぇ?龍孤」

「……えっとぉー。そのぉー、アレがああなってそうなって……こうなったんだよ。なあ、春香?」

二人ともきちんと答えようとしない。クッソむかつくんだけど。

「で、何なの?」

「「魔の練習してたらミスって城の一部のぶっ壊した。皆、そこに行ってる。マジですみませんしたー!」」

凄い事やらかしたなオイ。此奴らだと冗談とは思えないから困る。

これだと行った先で問題にもなりそうだ。城の雑魚兵に追いかけられるのも困る。

ふむ……。

「お前が心配になる必要はない。大丈夫だ、今から行くところは未開拓の地だ。地図にも載ってない。しかも結界をはっといたから並の魔法使いじゃ壊せないよ」

それなら安心(?)だな。未開拓なら発見されづらい。早く行った方が良いな。

「じゃあ、今すぐ行こう。早く行こう」

「うん。行こうか」

「よーし、レッツゴー!」

何か忘れてるような……まあ、いっか。

遺跡までの道のりを雑談しつつ、休憩しつつで歩いていくと遺跡に着いた。

遺跡というよりは塔のような古ぼけた建物を見る。

「すっげー。でかいな、よく昔に造れたもんだ」

「うん。僕も最初に見たときはそう思ったよ。けどこれが人造ではなく神造だったら、ありえるかもってね」

龍孤は塔の方を見ているが、どこか違う場所を見ているような、思い出しているような目をしていた。

「……そんなことあるかっての」

俺は心の中で迷いながらも、ゆっくりと答えた。もしかしたらこの答えは自分自身に言い聞かせているものだったかもしれない。

「……そうだよね。そうだね。うん、そうだよ」

龍孤は俯き、ブツブツと自己暗示をかけるかのように呟いている。

大丈夫だろうか?しっかりと俺が支えなければいけないな。

「ささ、そろそろ行こう?国の兵隊さん達が来ちゃうかもしれないし、早いほうが良くない?」

やっぱり、空気を変えてくれる存在はありがたい。少しは心に余裕が生まれる。

「ああ、龍孤。頼む」

「……うん。分かった」

竜孤が手を縦に振ると、結界が消滅した。俺にも欲しい能力だ。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

「う、うん!」

龍孤の掛け声で、俺達は遺跡へと足を踏み込んだ。

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