13(完結編)
「女神の遺伝子も、前の僕の遺伝子ももう残ってない。僕は正規の方法で子を残せず、僕の複製は作られない。死んだら代わりはもういない。この特性は一代限りだ。僕は……『スナップショット』は死ねなくなってしまった」
限定的な可逆は完全なる不可逆へ。女神の血肉が混ざり込み、知らず境界線を越えたスナップショットはもう戻らない。人間にも、替えのきくクローンにも。
「重篤な疾患をやり直せなくなった僕は二眼くんと同じだ。これで、君と同じようにどこかへ至ることが出来る。どこへ行くのかは僕も知らないけど、さしあたって地球にでも行ってみようか」
◆◆
「死ぬのが怖くないんですか、スナップショット」
デジタル二眼レフは聞いた。地球は汚染され、人間の暮らす惑星ではもうないだろう。首を傾げた己の助手に、スナップショットは事もなげに言った。
「君がいるからね。どうせ僕より長生きはしないんだろ。しばしの別れだ。いつか来る死の先で、また君と会えるなら死ぬのだって怖くない」
デジタル二眼レフはやや面食らったように肩をすくめた。
「ほぼほぼプロポーズですよ、それは」
「そうなの? ところでプロポーズってなんだっけ?」
「特別の契約用紙に名前と印鑑を要求する旧世代の秘密の呪文ですよ。将来を約束するんです。まあ、そうやって要求する契約の名前を結婚っていうんですが」
「契約書なら書いただろ。これもう僕たちほぼほぼ結婚してるって言ってもいいんじゃないかな。それにしても旧世代か。地球式にいくならあとは、そうだね、二人の子供が出来れば完璧かな。プールと犬小屋のある家で……あれ? ウサギだっけ?」
スナップショットは首を傾げデジタル二眼レフを見た。デジタル二眼レフは向けられた視線を受け止めて意地悪く笑った。
「家に対する侮辱ですよ、それは。あなたが言いたいのは庭付き一戸建てに犬一匹でしょう? ああ、そうだ。ここであなたに使ったスキンの中身を混ぜ物に入れたって言ったら……そうですね、スナップショットはどうします?」
スナップショットは口を開けたまま目を瞬かせた。口が閉じ、理解した目が見開かれる。
「おー、そうきたか。なるほど、既に今現在が語られた未来図そのものってわけだ。面白いこと言うね、二眼くん……いや、待って。嘘だよね?」
真顔でスナップショットは問いただした。デジタル二眼レフは、呆れたように肩をすくめた。
「嘘ですよ。流石に洒落にならないでしょう。次があるなら混ぜても構いませんけど」
「いや、遠慮しとくよ……っていうか待ってよ、次なんてないよ。 死ねなくなったってさっき言ったばっかりじゃないか」
「ふふ、そうでしたね。せいぜい長生きしてください、スナップショット」
デジタル二眼レフはそう言って笑った。
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