ノスタルジア

霜月透子

プロローグ

いつかの夕暮れ 鎌倉

ただひとつの言葉もなく

ふたり佇む由比ヶ浜

海に沈む夕日を眺めつつ

靴を脱ぎ捨て立つ砂浜

あなたの隣で同じ夕暮れを感じている

かすかな絵具の香り漂う


私達はどこへ行くのだろう

今は隣で同じ夕日を瞳に映すのに

きっといつかは――


眠たげに閉じていく夕日に照らされて

あなたはなにを思う


海が思色おもいいろに染まる

夕日のかけらが波に散る


あまりに美しくて

あまりに哀しくて

涙が溢れそうになる


今は手を伸ばせば触れられるのに

きっといつかは――


不言色いわぬいろの日は落ちゆく

江の島に闇は迫る


私達は互いに見つめ

ただひとつの言葉もなく

脱ぎ捨てた靴を手に取る


重ならないふたつの影は

砂浜にひょろ長く伸びている



やがて

西方の果てに日は沈む




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