第3話 謁見の間
というわけで、ゴールド◯ロスを無理矢理装備させられた僕は謁見の間というところに連れて行かれるらしい。
例のクソダサい呪文は無理矢理唱えさせられたけど、結局何も起こらなかった。
鎧のサイズは大きいままなので、兜に頭は届いていないし、手足は浮いている。身につけたというよりは鎧に閉じ込められた状態だ。
当然そんな状態で歩けるわけもなく、時間もないので仕方なくセニアとフォグは僕を台車に乗せて運び出してた。
何をするつもりか知らないけど、こんなんでいいの? 式典に参加するとか言ってなかったっけ?
頭は胸の辺りにあるから外の様子はわからない、兜からわずかに光が入ってくるだけだ。
おまけに台車の上に乗せられているせいで、凹凸のある場所では激しく鎧の中が揺れる。幸い腕は自由に動かせる余裕はあったので僕は鎧の少ない出っ張りに手をかけて、揺れに耐える。
着心地、いや居心地は最悪だった。直してもちんポジはズレまくるし。
「ねぇ、こんな状態の僕を連れて行って大丈夫なの?! 」
台車の音にかき消されないように、大きめの声でセニアに話し掛ける。
「救世の鎧を身に付けて式典に参加することは、古の預言書に書かれているのです。それを破ることは許されませんわ」
「こんな格好で行ったところで僕も君も恥かくだけだって!とりあえず戻ってこんなの脱ぎたいんだけど」
「もういい加減にしてください! 」
ダメだ、取り付くしまもない。何とか逃してもらえないか話を聞いてほしかったけど、無理みたいだ。
目が覚めたら見たこともない豪華な部屋にいて、いきなり王子とか呼ばれて、変な鎧着せられて魔物倒せとか言われて。
こんなことが学園もののギャルゲーで起こるか?
王子、鎧、魔物退治。
これじゃあまるで。
これじゃあ……まるで?
僕は自分が行き着いた答えに戸惑う。
そう、これはまるっきりRPGの展開だ。
じゃあ何か、ギャルゲーの主人公がRPGの主人公になったっていうのか⁈
いや、ありえないだろ。何でそんなことになる?バグか?いや、さすがにストーリーが根本から変更されるなんてことはない、絶対ない‼︎
そうか、これは夢だ。急遽シナリオが変更されてRPG展開からの夢オチ、目が覚めたらいつものベッドにいました的な感じだろう。
そうやって僕の平穏な学校生活が始まるんだ‼︎
「英雄様、謁見の間に着きましたわ。もう観念してきちんと式典をこなしてくださいませ」
僕が現状について混乱している間に目的地に着いたようだ。ガタガタ揺れてた台車がピタリと止まる。
「ローミア王国第一王子英雄殿下の、おなぁぁぁりぃぃぃぃ! 」
おとぎ話でしか聞いたことがないような大げさな呼ばれ方だ。男が僕の名前を声高に叫ぶと、再び台車がゆっくりと動き始める。
「英雄殿下! 」
「英雄さまぁぁぁ! 」
「殿下万歳!」
謁見の間とやらに入った途端に、一気に歓声が上がった。よく聞いてみると僕を讃える声も結構ある。
が、しかし。
僕とセニアが進むごとに静まっていき、歓声はざわつきへと変わった。
「あれは英雄様か? 」
「なぜ台車に鎧が? 」
「お顔が見えないぞ」
ですよね!
たぶんここは鎧を纏った王子がカッコよく登場して皆さんに手を振るシーンですよね。
集まっている人達の期待とは違うものが出てきたので、動揺しているようだった。いや言われている本人が一番訳がわからないんですがね。
外は見えないけど、声の量からかなりの人数がここに集まっていることがわかる。謁見の間はホールみたいなところなのか。
何とか外の様子が見えないかな。今運ばれいる通路は揺れが少ないようなので、覗くことができるかもしれない。唯一見えそうなのは兜の顔の部分。首の辺りに手をかけて、覗くことはできそうだけど。
そうなると懸垂を維持した状態で、覗かなければならないわけで、問題は僕の筋力がもつか……。
僕は腕に力を込めて鎧の首回りに手を掛け、グッと体を引き上げた。上腕辺りがプルプル震えているけど、どうにか兜の顔の部分から外が見えた。
謁見の間はやはり広いホールのような場所で、大勢の人々が集まっていた。人々の訝しげな視線が鎧に向けられている。
豪華な装飾が施されていて、壁一面には美術館にあるような絵画、天井から巨大なシャンデリア、光を反射したガラスがきらめいている。
人々の真ん中を通れるように通路があり、僕とはセニアはそこにいた。通路には真っ赤な絨毯が敷かれ、遠くまで続いている。通路の先には1人を中心にして何人か人が囲んでいるのが見える。
そのままでは顔が見えないので、兜から頭をなるべく突き出して目を凝らす。中心にいる人は椅子に座ってこちらを見ている。頭には王冠、茶色い長い髭、緑色の長いマントの首元には真っ白な毛皮が付いている。
格好からして、明らかに王様だった。
ということは彼が座っているのは玉座というやつだろうか。
「な、何じゃこりゃ? 一体どうなっておる」
玉座の手前で台車が止まる。
僕の姿を見た王様は上擦った声を出した。普段は威厳を放っているはずの眼は驚きで見開かれていた。
「ご無礼をお許しくださいませ、陛下。このような形でお連れすることになりまして……」
セニアは王様に駆け寄り、何やら耳打ちをしている。漏れてくる声からこれまでの経緯を話している様子だった。
「おかしいのぅ、呪文を唱えれば体に合わせて鎧が変化するという言い伝えなのじゃが」
「唱えて頂いたのですが、何も起こりませんでした」
「こんな姿では民に示しがつかんではないか。フォグと何をしておった」
「式典に遅れるよりはいいかと思いまして……」
「あの、僕をほったらかしにして話進めないでもらえます?! 」
ここでも僕を無視か。鎧から大声で叫んだ僕に王様は目を向けた。式典とやらにこんな姿できた僕を呆れたような目で見つめる。
「倅よ、わしゃ恥ずかしくてしょうがないぞ」
「せがれって僕のことですか? 」
「お前以外におるか!このローミア王国国王ロイヌンティウス8世の子、ヒデオ・ローミアではないか」
いや、初対面ですけど。
ヒデオ・ローミアなんて小学生がゲームで自分の名前をそのまま付けたみたいなバランスの悪い名前でもないし。
「これから魔王討伐の旅路につこうというのに、お前という奴は……」
おい、今なんて言った?
本日何度目かの衝撃。
「今魔王討伐って言いました? 」
「ああ、そうだとも」
「魔王って、あのRPGに出てくるラスボス的なあれですか」
「何を訳わからんことを言っとる。お前はセニアとともに魔王とその傘下の魔物を討伐する旅に出るのじゃ」
はい、ご説明ありがとうございます。
なるほど、これまでの流れはこの展開につながってたわけですね。
よくよく考えてみれば、RPGの王道展開じゃないか。じゃあ何か、次は勇者の末裔に生まれた主人公が、仲間とともに魔王討伐の冒険に繰り出すとかそんな感じ?
「我がローミア王家はかつて魔王を封印した勇者の末裔、復活した魔王を倒すのは我が一族の宿命なのじゃ! 」
はい、やっぱりそうなる訳ですね。超ベタな展開だな、考えてたとおりになったよ。
「いきなり魔王と魔物倒せって言われても……。僕はどこにでもいる普通の高校生っていう設定なんで無理無理」
魔王を倒せる力があるならとっくにここから逃げられているだろうし、もっと力がついた実感があってもいいはずだ。今懸垂を維持している両腕がこんなにプルプル震えることもないはず。
っていうか、腕がもう限界。
僕は腕の力を抜き、音を立てて鎧の中に戻る。
が、急に力を抜いたのがまずかった。
銅の部分がグラグラと揺れ、鎧のバランスが崩れてしまい、僕は鎧もろとも前に倒れ込む。
「うわ‼︎落ちる‼︎ 」
咄嗟に頭を抱えて目を瞑ると、盛大な音が謁見の間に響き渡った。
勢いよく鎧が床に倒れたおかげで、僕は鎧の中から解放された。体をぶつけたようで所々痛いところはあるものの、大きな怪我はない。僕は目を開けてゆっくりと立ち上がり、辺りを見回す。
謁見の間にいた人々は鎧の中から出てきた金のネグリジェ王子に、唖然としている様子で、ざわつきは静まりかえっていた。
「あはは……、どうも」
あまりにもいたたまれないので、とりあえず挨拶をしてみるも当然返事が返ってくることはなかった。
「お……おお!集いし我が臣下、我が民たちよ。大いなる使命を帯びた第一王子ヒデオ・ローミアの旅立ちに祝福を!」
「はぁ?!だからそんな旅に僕は出ないって……」
王様に文句を言おうとしたが、僕の主張は遮られる。式典に来ていた人々が王様の宣言に反応して、拍手喝采を送り始めたのだ。人々の表情をよく見てみると、無理矢理笑顔を作って声を張り上げているような印象だった。
そう、とりあえず盛り上げとけみたいな感じ。
出ねぇよ、盛り上げてもらったところで出ませんよ?
僕は話を聞いてもらおうと王様に詰め寄る。
「人の話聞けコラ‼︎僕はあんたの息子でもないし、王子でもないし、魔王討伐の旅に出ないからな」
「……」
王様は目を泳がせて、僕の話を聞こうとしない。
「聞いてんのか‼︎じいさん!いい加減に……」
「集いし我が臣下、我が民たちよ! 」
「はぁ? 」
「大いなる使命を帯びた第一王子ヒデオ・ローミアの旅立ちに祝福を! 」
「おい、ちょっと」
「集いし我が臣下、我が民たちよ! 」
さっきまで普通にしゃべってた王様は、話しかけても同じことしかしゃべらなくなっていた。街の名前しか言わない村人Aかよ‼︎さっきまで普通にしゃべってたじゃねえか‼︎
「英雄様、参りましょう」
後ろを振り向くとセニアがいた。彼女の周りには荷物を持った兵士たちが控えている。
「もう何を申しても断わられることはわかっておりますので、失礼しますね」
と言うと彼女は僕の背中と膝の下に手を入れて、僕を軽々と持ち上げた。いわゆるお姫様だっこを女の子にされてしまったのだ。
「うわっ! ちょっ! はずい、恥ずかしいって!自分で歩けるから下ろしてくれ! 」
「だめですわ、どうせ逃げようとするのでしょう?恥ずかしくてもこのままです」
多少ジタバタしてみてもビクともしない彼女の腕。ああやめて、視線が痛い。女の子に持ち上げられるなんて情けないこと極まりない。
僕は民衆の声に包まれながら城の外へと連れ出された。
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