【番外編#2/解答編】寒い国から帰ってきたうどん

#解答編


ルートは推論魔法を発動し、再現世界を作った。

ルートの推論したことが正しかったとき、自動で発動するのが推論魔法だ。

そして推論魔法は、再現世界を作る。


再現世界の目的は、推論したことが正しかった、とルートが確認することにある。

いわば、限定的なタイムトラベルといってよい。

ただし、実際のタイムトラベルとは違って、再現世界の事柄に干渉することはできない。


再現世界が作られる範囲は、ルートが推論した内容だけだ。

今回、ルートが推論したのは──誰がローラに七味唐辛子を食べさせたのか?

そのため再現世界も、ローラが被害者となるまでのあいだである。


「魔王、さくっと地の文で説明したわね」

「二回目だしな。さ、ミア、グアン、さっそく再現世界へ行こうか」

「再現世界の人物は、『名前+(再)』で示すわよ」


ルート、ミア、グアンは再現世界へと移動した。

それは、まだローラが被害者となる前の、『魔王の間』だった。


「いきなりだが、ミア。お前が犯人だな」

「え、なんですって! というか、本当にいきなりね。もっと段階を踏むものなんじゃないの、そういうのって」


「そうしたかったんだけどな。

まず『さっきの回想で嘘をついていたのは、ミア、お前だ』と指摘しようと思ったんだが──『回想で嘘をついていた』=犯人、だからさ。先に言っておいた」


「まって。そもそも回想であたしが嘘をついていた、とはどういうことよ? 

なにを根拠に言うのよ」

「見ろ。ちょうど、ローラ(再)が『魔王の間』にやってきたところだ。

そして、ローラのツインテールを、よく見てみろ。あの大きさ、そして縦ロールを」


「そ、それが、どうしたというのよ?」

「あんなツインテールした庭師が──いてたまるかぁぁぁ!」

「言われてみれば、そのとおりだわぁぁぁ!」

「「「……」」」



「って、なんだ、それぇぇ!」

「魔王、なぜ自分の推理にツッコミを入れたりしたのよ」

「ボケ推理だったのに、誰もツッコんでくれなかったからだ!」 

「あたしは『驚き役』だったから、仕方ないわ。ここはグアンがツッコむところなのに」

「す、すまん。拙者、馴れてないものでな」

「ローラなら上手くやってくれただろうに! 

くっ、ローラは唯一、ツッコミ役を託すことのできる奴だったのに。

惜しいツッコミ・ツインテを亡くしたものだ!」

「魔王。あえて言うけど、ローラは生きているわよ」


「とにかく、だ。ローラが庭師に化けて怪しまれない、というのは無理がある。

お嬢様です! と、主張しているあのツインテールで、庭師はない。

ミアが単独だったからこそ、庭師として潜入できたんだ」

「魔王。いま考えてみると、あたしみたいな少女の庭師が、そもそも無理あるような──」

「うるさい! クレームは受け付けません!」


「では、ミア殿とローラ殿は一緒ではなかったのだな?」

「ああ。ミア、お前が尾行したのはグアンではなかった。ローラだったんだ。

ローラが、くだんの豪邸に入って行ったから、庭師に扮装して、侵入した。

そこでミアは、ローラとグアンの従妹を見た。

同級生だったのなら、ローラが遊びに行ってもおかしくない」


「では、ミア殿はなぜ、拙者のことも知っていたのだ?」

「偶然、グアンが高級洋菓子を土産にして、やって来るのを目撃したんだろ」


「だが魔王よ。そもそも、ミア殿はなぜ、ローラ殿を尾行したりしたのだ?」

「ローラの弱味を握るため、だな。だがこれという弱味がローラにはなかった。

そこで実力行使に出ることにした。七味唐辛子で、ローラの息の根を止めたんだ!」

「魔王。あえて言うけど、ローラは生きているわよ」


「しかしミア殿は、どうやったのだ? 

ローラ殿のうどんに、七味唐辛子をたっぷりとかけた。そこまでは良い。

だがローラ殿は、七味唐辛子たっぷりのうどんを食べるだろうか?」

「そうよ。七味唐辛子たっぷりのうどんを、ローラは食べるはずがないわ。

かといって、あたしが無理やり、ローラに食べさせることもできなかったはずよ。

つまり、あたしに犯行は不可能なのよ」

「不可能犯罪というものであったか!」


「いや可能な犯罪だ。さてまずは──ここからはじめよう。

ダイイング・メッセージの前に、ローラはクイズを書いていただろ? 

月面で地球より軽いものは? これな、答えは、風船だ」


「風船ですって?」


「地球では、ヘリウムの入った風船は、大気が支えている。だから重さは測定されない。けれど月面にはその大気がない。

よって僅かながら重みを測定でき、うげっ! ──ミア、なんで、いま殴った!」

「ドヤ顔で解説しだす魔王が、心からウザかったからよ」


「……じつはこのクイズの答えも、ローラのダイイング・メッセージだったんだ。

つまり、風船だ。風船の中には、ヘリウムが入っている。そして──」


ルートは、先ほど拾った包みを取り出した。チョコの香りがする包みを。


「チョコの中には、七味唐辛子が入っている」

「チョコの中に、だと? どういうことだ、魔王? 七味唐辛子は、うどんの中にあったのではないのか?」

「そっちはミアの偽装」

「なんと」


「経緯は、こうだ。まずミアは、ローラにチョコを渡した。仲直りの印とでも言ったか。ローラは、少しは疑っただろう。けど、結局はチョコを食べてしまった」

「そのチョコの包み紙を、先ほど魔王が拾ったのだな」

「チョコは丸いタイプだった。風船のように、な。そしてチョコの部分は、表皮だけだった。

ローラはチョコを齧ればいいものを、ひとくちで口の中に入れたのだろう」

「チョコの中には、七味唐辛子がたっぷり仕込まれていたのだな! 風船のヘリウムのように」

「そう。チョコの表皮が溶け、ローラの口内に七味唐辛子があふれ出した。そしてローラは毒殺された。気の毒に」

「魔王。あえて言うけれど、ローラは生きているわよ」


「続いて、ミアは『魔王の間』にテーブルを運び、ローラの右手に箸を握らせる。

あたかも、うどんを食べたかのように。で、テーブルの上には、うどんだ。

ところで、うどんには、事前に七味唐辛子をかけておいた。これの意味、わかるか?」

「そうであったか。拙者は、犯人が七味唐辛子の容器を持ち去った、とばかり思っていた。だが違ったのだな、魔王よ?」

「そうだ。本当は、ミアの凡ミスだった。

事前に、うどんに七味唐辛子をかけてしまったせいで、テーブルに七味唐辛子の容器を置くのを忘れてしまったんだ」

「七味唐辛子の容器さえあれば、『ローラ殿はうどんに七味をかけすぎてしまい、しかも無理して食べたせいで、激辛のため気絶した』という構図が出来上がっていたのだが、な」

「惜しかったな、ミア。だが完全犯罪なんて存在しないんだ。あ、ローラ(再)が!」


ローラ(再)が、包みをはがして、パクッとチョコを口内に放った。


「おお、ローラ殿がのた打ち回りだした。七味唐辛子、恐るべし」

「しかし、のた打ち回りながらも、スマホにクイズとダイイング・メッセージを打ちはじめたな」


そのあと、ローラ(再)はスマホとチョコの包みを、ポケットにしまった


「そうか。ミアがチョコの包みを回収できなかったのは、ローラがポケットに隠していたからか。

このあとで、グアンがローラのスマホに気付き、ポケットから出した。

そのさい包みも出て、ローラの傍に落ちたのか」

「魔王より先に、包みに気付いてさえいたら、回収できたのだけどね」


ついにローラが息絶えた。

「ねぇ、地の文。あえて言うけれど、ローラは生きているわよ」


ミア(再)が、ローラ(再)が死んだことを確認してから、テーブルとうどんを運んできた。

「だから、ローラは生きていると言っているでしょうが!」


「ところで魔王よ。ローラ殿のダイイング・メッセージは、どう読み解くのだ?」

「あれは、ダイイング・メッセージを、和文モールス符号に変換するんだ。

ヒントに、『電鍵』とあっただろ。

電鍵というのは、モールス符号を出力するための装置だ」


「しかし、どうモールス符号に変換するのだ?」

「ヒントには、あと『麒麟』とあっただろ。

麒麟を漢字で記しているのが重要だ。

つまり、この麒麟とはダイイング・メッセージ内の『漢字』のことを示している。で、キリンの特徴といえば」


「首が長い、ということか?」

「そう。『漢字』を示した、キリンの首は『長い』。

つまり、漢字を長点(─)に変換しろ、ということ。

だから、アルファベットのほうは、短点(・)に変換すればいい」

「というと、どうやるのだ?」


「たとえば、はじめの『PP丹K場』だと──P、P、Kは短点(・)に変換。丹、場は長点(─)に変換。

すると、『・・─・─』で、和文符号だと『ミ』となる。この調子で解読していく」

「すると、どういう内容が浮かびあがってくるのだ?」

「このダイイング・メッセージは、犯人を示すものと同時に、犯人へのメッセージでもある。つまり、ミアへのメッセージだ」

「え、あたしへの?」


「ローラは考えた。犯人であるミアは、ローラのダイイング・メッセージを必死になって読み解こうとするはず。

ダイイング・メッセージで、自分が名指しされているかもしれないわけだからな。

そして、ようやくミアが解き明かしてみると、それは──」

「ミア殿へのメッセージというわけか。そういえば、ミア殿はモールス符号がわかるのであったな」

「あいにく、ミアより先に、おれがダイイング・メッセージを解いてしまった。そこで、おれがローラにかわって、伝えよう」


ルートは、ミアの両肩をつかみ、まっすぐにミアの目を見た。


「『ミアはアホ』」



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「次回予告! ということで、今回、犯人だったミア。

3話は、どういう話になるんだ?」

「《魔サス》がハリウッドで映画化されるという話よ」

「地球が引っくり返っても、そんなことはありえないからな!」


「3話では、最後の主要キャラであるサキラが登場するわよ。そして、サキラの可愛がっていた『ブタ──」

「え、ブタに悲劇が? そんな重たい話なのか?」


「の貯金箱』が盗まれるという話なのよ」

「その羽毛のような軽さこそ、《魔サス》出張版の真骨頂!」


「第2話からはじまった『読者の皆さんへの挑戦状』が、次回は2度もあるわよ! 一度で二度おいしいわよ!」

「フォロワーの皆さん、次回も番外編で会いましょう!」



追記)七味唐辛子入りうどんはスタッフが美味しく頂きました

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