第7話

 豪華な装飾の施された椅子と机がある室内に通される。我らの前には2人の男女が座っている。もちろん、部屋の外にも人の気配を感じている。聞き耳を立てて、いつでも入れるようにしているのだろう。


「私がここのギルド長のクラエスと隣にいるのが副ギルド長のヘレナだ。お初にお目にかかる」


 隣に座る女が無言で頭を下げた。


「我はゼロ=クレインである」


 顎でヤコブをさし、促す。


「あっしはヤコブと申しやす」


 クラエスと名乗った男は豊かな顎鬚を撫でつけながら、腕を組んだ。


「早速だが、事情を聞きたい。君達もあまりここに居たくないだろう?」


 我としてはここに居座って、闘争を楽しんでも良いのだが、ヤコブの汗が先ほどから止まらない。少々辛かろう。


「そうだな。と言っても我は襲いかかってきたから、受け止めてやったに過ぎん。我に非があると申すのか?」


 我が机に拳を乗せると慌てたように、ヤコブが口を開いた。


「詳しいことはあっしが話しやす! 事の起こりはですねーー」


 ヤコブは身振り手振りで話をするが、お世辞にも上手い説明であるとは言えず、何度か同じ事を繰り返していた。

 ヤコブが話し続ける間も、二人は我から決して目を離さず警戒をしているようだった。それが気取られる時点で未熟であると言わざるを得ない。


「なるほど。その者たちの怪我の度合いによってはゼロ殿にも支払いを求めるかもしれないが、今回の場合、その心配はないだろう」


 ドアが何度か軽く叩かれ、ヘレナが立ち上がる。数分ほど外で話し合うと、再び戻り、


「ギルド長、問題はないそうです」


 一度頷く。わずかに纏っていた空気が弛緩した。


「先方の怪我もどうにかなったようだ。では、ゼロ殿にいくつか聞きたいことがあるのだが、良いだろうか?」


「良いだろう」


 クラエスは笑みを漏らす。


「ここまで尊大な態度を取られるのは久々だよ。

 では、ヤコブ君。君は職業、怪盗のBランクで良いかな?」


「間違いありやせん」


 ヤコブは少し早い口調で答えた。ヤコブの汗はすっかり乾いていた。


「ゼロ=クレイン殿、私の記憶が正しければ、君は冒険者ではないはずだが、ここへは何用で?」


 その言葉にヤコブは我の方を振り向いた。


「旦那、冒険者じゃなかったんで?」


「うむ。我はこのように人の多い場所へ来るのも初めてである」


 ヤコブはううむ、と何やら考えこんだ。


「君たちにも色々と事情があるようだが、それで君はどうするのだね?」


「ふむ、どうするとは?」


 ここで一戦交えるというのか? 


「なに、折角だから冒険者になってみてはどうかな? 君のように強い者を仲間にできるのは大きい。どうかね、今ならすぐにでもランク判定試験を受けられるようにするが、それも無料でね」


 何だ、そのランク判定試験というのは。チラリとヤコブを見る。視線を受けヤコブは頷いた。


「ランクは冒険者の実力を示す計りでございやして、ランクが高ければ高いほど様々な特権を得ることができやす。

 そして、ランク判定試験はギルドの実力者と闘い、上手くいけばランクを一瞬であげることができるんですよって。

 まあ、ただ普通はそれなりに金がかかりますし、実力もないといけやせん」


 「ま、旦那なら問題ないでしょうがね」、とニヤリと笑う。

 ならば、受けておいて損はないか。それにどの程度の強者が出てくるのかも楽しみだ。

 クラエスが話を続ける中、我の意識は次なる戦闘に集中していった。

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