太陽をつくる

 ここで、だれかさんがつくった星について、ひとつの例を見てみることにする。

 といっても、すべての星を、だれかさんが直接自分だけでつくったわけではなかった。何しろ、星はたくさん(星の数ほど!)つくる必要があったので、だれかさんがひとりだけでつくるのは無理だった。

 だれかさんが手伝いを頼んだのは、例えば、デミウルゴスやヴィシュヴァカルマンやコタンヌクルやバンコやティダやアメノミナカヌシやマルドゥクやガイアやユミルやマウイやアトゥムなどだった。ほかにも、たくさんのものたちが、下請けとして手分けして星をつくった。

 この中で、うお座・くじら座超銀河団Complexの中の、おとめ座超銀河団の中の、局部銀河群の中の、天の川銀河の中の、オリオン渦状腕の中にある、とある恒星系を取り上げてみよう。このありふれた恒星系(便宜上、太陽系と呼ぶ)が形成されはじめたのは、第90億年目である。



 太陽系の作成を担当したのは、アメノミナカヌシだった。

 アメノミナカヌシは、実際には姿を現さず、イザナギとイザナミに矛を与えて作業を丸投げした。いわゆる孫請けである。

 まずはじめに、イザナギとイザナミは、星くずの海の中に矛を突っ込んで、かき回しはじめた。そして、引き上げたときに矛の先から滴る星くずが集まったものが星になった。これが太陽である。

 あまりにもきれいに太陽ができたので、イザナミはうれしくなって、イザナギに抱きついた。

「ねぇ、はやく。次は惑星をつくりましょう」

 イザナギは、イザナミが積極的なので、少し戸惑いつつも、惑星をつくることに同意した。

 そうして、ふたりで惑星をつくりはじめたが、できあがったのは、惑星としては不完全なものだった。しかたがないので、この不完全なものは、そのへんに放り投げてしまった。これが彗星である。

 どうして不完全なものができてしまったのか分からなかったので、イザナギとイザナミは、アメノミナカヌシのところへ行って、太占ふとまにで占ってもらった。アメノミナカヌシが言うには、「イザナミのほうが先にものを言ったのがよくなかった」ということだった。

 そういうわけで、イザナギとイザナミは、もう一度やり直すことにした。今度はイザナギから言うことにした。

「さぁ、惑星をつくろう」

「はい。よろこんで」イザナミも頷いた。

 このようにしてできあがったのが、水星である。つづけてふたりは、金星と地球と火星をつくった。これらの三つの星は小さな惑星だったので、イザナギとイザナミは、もっと大きな惑星をつくろうと思い、木星と土星をつくった。

 イザナギとイザナミは、さらに惑星をつくりつづけた。天王星と海王星である。次につくった冥王星も、当初は惑星であったが、いつのまにか準惑星にされてしまった。

 このあと、イザナギとイザナミは、小惑星や衛星(月も!)などの小さな天体をつくりまくった。また、イザナギとイザナミは、たくさんの天体をつくったが、その配置をまったく考えていなかったため、太陽系はとてもごちゃごちゃした状態になってしまった。そして、イザナギとイザナミは、そのまま仲良く手をつないで、どこかへ行ってしまった。



 アメノミナカヌシは、太陽系の星々をきれいに整理整頓する作業を、アマテラスとスサノオに命じた。

 さっそくスサノオは自分勝手に作業をはじめた。スサノオは直感的に地球を中心に固定して、その周りを太陽やその他の惑星などが回転するという配置にした。ところが、この配置では、惑星の運行をうまく制御できなかった。そこでスサノオは、プトレマイオスを呼び寄せて、惑星の運行をうまく制御できるモデルを考えさせた。

 プトレマイオスはまず、スサノオと同じように地球が太陽系の中心で静止しているという配置を採用した。そして太陽と月は、単純な円軌道で地球のまわりを回転するものとした。惑星については、周転円、導円、離心円、エカントといったものを駆使して制御できるようにした。

 この配置にスサノオは満足して気が大きくなり、態度が横柄になった。

 スサノオは、エーテルやダークマターやダークエネルギーをつくって、まわりに迷惑をまき散らした。

 一方、アマテラスは、星々の配置作業に自分が加えてもらえなかったことが気に入らなくて拗ねてしまい、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 アマテラスの姿が見えなくなると、太陽系は俄かにかき曇り、暗くなってしまった。そうすると、文句を言う者がわらわらとどこからともなく現れた。

 アルフォンソ表を手に入れたコペルニクスは、太陽を中心に配置するべきだと言い出した。

 ティコは、ウラニボリと呼ばれた天文台をつくり、プトレマイオスの配置とコペルニクスの配置の折衷案を考え出した。

 そして、ケプラーは、ティコの観測データを使って、太陽のまわりを惑星が楕円軌道でまわるという配置にたどり着いた。

 また、ガリレオは、望遠鏡を持ち出して、木星に衛星をつけるようにしようと言い出した。そして、こうつぶやいた。

「それでも、地球は動く」

 このように、多くの者が騒いでいたので、アマテラスは、何が起こっているのか興味があって、ドアのすき間から外を覗き見した。

「あんたたち、なにやってるの?」アマテラスは、そばにいたアメノウズメに尋ねた。

「天体の動きは計算できますが、群衆の狂気は計算できません」アメノウズメは、地団駄を踏みながら答えた。

 アマテラスは、その言葉の続きを聞きたくて、ドアから少し顔を出した。その瞬間、横からタヂカラノオが襲い掛かってきたので、アマテラスは華麗に身を翻して攻撃を避けて、タヂカラノオの顔面を一閃。光速パンチによって、タヂカラノオはあえなくダウンしてしまった。あたりは再び明るくなった。

 アマテラスは、のびているタヂカラノオの上を乗り越えて部屋から出てきて、高らかに宣言した。

「太陽系は、太陽を中心に配置する。惑星は太陽のまわりを楕円軌道で回転する。地球には月という衛星をつける。木星にも衛星をつける。土星には輪っかをつける」

 アマテラスは、すばやく太陽系の配置をし直した。そして、これをみて、よしとした。

 このようにして、太陽系の配置が決まった。しかし、この時点ではまだ太陽系は、太陽のまわりを惑星がまわっているだけという、退屈な世界だった。



 スサノオは、みんなに迷惑をかけたとして追放された。



                             つづく 予定





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