神々の戯れ

青柳 桜萌黄

星をつくる

 むかし、むかし、あるところに、だれかさんがいた。

 あるところとは、どこなのかよくわからず、だれかさんとは、だれだかよくわからないものだった。

 そのだれかさんが「光あれ!」といった。光があった。だれかさんは、これをみて、よしとした。

 このあたりのことは、じつはよくわかっていないのだが、だれかさんがいうところによれば、ひとつのところにぎゅっと詰まっていて、アツアツだったらしい。

 だれかさんがなにかをしようとするまもなく、つぎの瞬間にはものすごい勢いで膨張をはじめていた。いわゆる指数関数的成長である。あるところは、はじめ、想像を超えるほどの高温・高密度だったが光速を超える速度で離ればなれになってしまった。

 あるところは、わけがわからないほど、ごちゃごちゃになって、手がつけられなくなってしまった。だから、だれかさんは、まず、物理法則をつくるところから、はじめなければならなかった。しかし、物理法則をゼロからつくりあげるのは、だれかさんにとっても、たいへんなことだった。

 そこで、だれかさんは、アインシュタインをよびよせた。

 アインシュタインは最初、特殊相対性理論というものを考え出した。しかし、特殊相対性理論はあくまでも「特殊」であり、限られた場面でしか適用することができなかった。アインシュタインはさらに考えて、とうとう一般相対性理論を完成させた。

 できあがった一般相対性理論をみて、だれかさんはよしとした。

 とにかく、 ここまでで、まだ1秒もたっていない。

 この急膨張によって、超高温・超高密度の状態から温度・密度ともに下がってゆくのである。下がっていくといっても、1秒後の時点で温度は100億K、密度は水の密度の20万倍程度である。

 さらに3分後には、温度は10億K、密度は水の密度の20倍程度まで落ちている。

  さて、このころにはなにがあったかというと、かたちあるものは存在せず、ただ、目にみえないほど、細かなつぶつぶがあるだけだった。

 だれかさんは、かたちあるものをつくろうとしたが、まだ、あるところは、あまりにもあつすぎて、とても手をつけられる状態ではなかった。

 だれかさんは、つぶつぶをひとつずつ、ちまちまとくっつけて、かたちあるものをつくりはじめたが、あまりにもめんどうなので、とちゅうでつかれてしまった。かたちあるものは、あとでまとめてつくることにして、しばらく、ねつがさがるのを、待つことにした。

 ここまで、だいたい3分ほどである。

 このあと、だれかさんは、しばらく、おやすみをとることにした。第1日目、第2日目……と、無為に過ぎていった。なので、比較的おだやかな、変化の少ない状態が続いた。

 このころは、放射が優位を占める時代といわれており、放射のエネルギー密度がふつうの物質よりも大きかった。

 へんかがすくなかったとはいえ、あるところは、すこしずつ、ふくらみつづけ、すこしずつ、ねつはさめていった。だれかさんも気づかないくらい、ちいさなへんかはあったのである。

 さて、この時代まで、説明できないような諸事情により、光は直進することができずにいた。したがって、全体としては霧がかかったような状態で、何も見えなかった。

 だれかさんが、ふたたびしごとをはじめたのは、第30万年目のことだった。



 第30万年目、あるところの温度は、約3000Kまでさがっていた。

 だれかさんが、ゆびをパチンッとならすと、いままで、まいまいしていた光が、まっすぐにすすむようになった。すると、きりがかかったような、もやもやがはれて、みはらしがよくなった。だれかさんはこれを、再結合と名付けた。

 再結合とは、どういう意味なのか。結合は、電子と原子核が結合して、通常の原子を形づくることである。では、なぜ「」結合なのか。結合したのは、このときが初めてであるにもかかわらず。

 有力な説によると、だれかさんは、あるところ以外でも同じようなことをしていたので勘違いして再結合と名付けたのかもしれない、というのである。

 だれかさんは、そこらへんにちらばっているつぶつぶをかきまわして、かきあつめて、ほしをつくりはじめた。

 しかし、だれかさんがやすんでいるあいだに、あるところは、とてもおおきくふくらんでしまったので、つぶつぶをあつめることは、たいへん時間のかかるしごとになってしまった。だれかさんは、夢中で、つぶつぶをあつめはじめた。あつめつづけた。あつめつづけた。あつめつづけた。

 あまりに夢中になりすぎたので、さいしょのほしは、おおきくなりすぎてしまった。

 最初の星が誕生したのは、第3億年目のことである。

 さいしょのほしは、おおきくなりすぎたので、数百万年で、じゅみょうがつきてしまった。

 質量が非常に大きな星は、とても不安定で、自分自身で勝手に崩壊してしまうのである。

 そして、このほしのさいごは、だいばくはつであった。このだいばくはつによって、ほしはバラバラになり、ほしくずは、あたりいちめんに、ぶちまかれた。

 だれかさんは、すぐに、つぎのほしをつくりはじめた。

 だれかさんは、はじめ、ほしをひとつずつ、つくろうとしたが、ほかにもっとよい方法が、あるのではないかとおもった。

 そこで、ハーシェルをよびよせて、よい方法をかんがえさせた。

 ハーシェルは、銀河という円盤状の星の集まりの図を作成した。

 だれかさんは、ぎんがのずをみて、よしとした。

 だれかさんは、ほしくずを、えんばんじょうにあつめて、ぎんがをつくりはじめた。つくりつづけた。つくりつづけた。つくりつづけた。

 ぎんがのなかには、ほしが、じゅうぶんすぎるほど、たくさんあったので、だれかさんは、これをみて、よしとした。

 銀河は、数百から数千集まって銀河群、銀河団となり、銀河群、銀河団がさらに集まって超銀河団を形成した。超銀河団の連なりは、銀河フィラメントという構造を形づくった。

 銀河が形成されたのは、第10億年目である。



                                つづく

 

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