第8話


実は、彼女の今までの体験談やそれに関わる話を聞き、こちらが突っ込んでの繰り返しで、物件を見つける話、進んでないのだ。

でも話が、とにかく面白いように弾んで。


三時間しゃべり倒して、最後に残った客は、ぼくだけ、の構図で。

さすがにぼくも脱線しまくった話を振り出しに戻した。


「すいません。それで。物件の話なんですけど…」


「ああ、はいはい。そうですよね」


全然進んでないですね、なんて笑う姿が憎めない人。

結局、話は迷走に迷走を重ねて、5件くらい物件を出して。

ぼくが選んだのは、二件。


『この物件、どっちかが、つぎに内見するとき本決まりで無くなってますよ』


その二件のうち、内見には間に合わないで、売れる。

ナナミがそう呟いた。


しかも、売れる物件は僕の本命。


だそうだ。


(てことは。これかな)


彼女が出してくれた物件は、間取りだけで写真を見れないものがほとんどだったんだけど。

間取りを見ただけで、この時期の僕の妖怪アンテナならぬシックスセンスは、反応していたのだから、素直に驚くばかりだ。


僕は、5件中の二件で迷っていた。


でも、住むならこれだ、これを今日内見できたらいいのに。


(これ)


ぼくがやたら気になったのは、和室物件。

住むならフローリングがいいと思ってたけど、和室、で引っかかっていた。

広さや収納、ほしいものがそろってる、この物件一号は、築年数は若干古いが、駅までの距離も遠くない。

何より。

写真を見れていないが、たぶん向こう側連中が…「いない」部屋。稀少な物件だった。


「では、これくらいで本日はよろしいですかね」


「ええ、十分です。」


「では、次の内見の日程ですが」


「あー、今日はもう内見行けないんですよね。」


「すいません。車を他のスタッフが使ってて、今日は無理なんですよ」


「うーん。そうですか。これのどっちかだけでもって思ったんですけど」


ナナミの言葉が頭をちらついたから、迷った二件への内見を粘ったものの。


「すいません。終日車がないんですよ」


(ダメだ。もってかれる)


「次の休み、3日後なんで3日後でお願いします」


「はい、その日の内見なら。私も空いてます」


ナナミの言うことがあったってしまうとすれば。。

3日後はこの中でいくつか売れてしまうんだろう。


(これ、内見の日時決まってんのに、売れんのか)


内見の日時は3日後。

3日後には、ない。


ないなら本物。

だから無意識に焦ってるんだと気付いたぼくは、ため息をついた。


売れるとわかってるなら、どうあっても今日は契約を決めたいのに。


(内見もできねえとか不憫)


先のことがわかるのも考えものだ。

そう、ナナミにこぼすのは、後だ。


(とりあえず貰って帰るか)


間取りだけでなにがわかるといわれても。

ぼくが選んだのは二件だけ。

他のは今ひとつしっくりこなかった。

なぜか、は内見したらわかる。

そう。できれば、今日で決めたかった。

にゃんたろうも焦ったように今日決めるって言ってたけど。

これに訳があったんだと。

ぼくは後になって気付いたのだった。

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