第7話


「え」


「私霊感はないですけど」


彼女がぼくを見る目は、ぼくを笑う目ではなかった。

普通なら気持ち悪い、と見る目を変えるのが当然だ。

なのに。


「不思議なこと体験したことあるんで、そういうの、否定しないです」


彼女のひとみが、不思議な色を灯した。

知ってる。

その目が言ってた。


「え、わかるんですか?」


そう言ったら、出るわ出るわ。

彼女のした不思議体験。


彼女の祖母や友が夢枕に現れたふしぎ体験から始まって、様々、いままで巡ってきた物件の心霊体験、デジャブ、それに及ぶ生命の危機。

ないはずのものが現実に現れたり、付けた覚えのない索条痕が勝手に首についたことや、本人にしたらありえない事故の話とか。

本気でこれ、実話ですかレベルの話。


そして挙句知る。


「それ以来、私、「何かある」物件いくと、足、つるんです」


「へ?」


例えば彼女がいく物件が仮に事故物件だったものだとすると。

その物件に入った瞬間に。

脚が急につるんだそうだ。


理由もなく。


まるで、そこではそれ以上進むなよ、と言わんばかりに。


「後で分かったらそれ、事故物件だったみたいで。一緒に物件まわった人はお祓いしたけど、そっちは大丈夫だったかって連絡まで来て。そういえばで思い出したら、その時期、確かに不思議な体験多くて…」


(ていうか。聞けば聞くほど)


「あれからなんですよね、足つりだしたの」


この人、俺より見えてるし、俺よりヤバい体験してるよね。


『すごいですね』


ナナミが呟いた。

あのナナミが。

…感心していた。


「あはは、すいません。全然関係ない話しちゃって」


止まらない。

話が。

どうにもならない、向こう側。霊的な話の連続なのに。

止まらない。


「すいません、俺がきっかけでこんな話になっちゃって」


でかい声で盛り上がってたけど。

周りにいるのは一般のお客さん。


いるのに。


止められない。向こう側に関する話が。


「その物件で、携帯が動かなくなって…」


「そのとき、写真撮りませんでした?」


「とりましたとりました。コレですか?」


「違います、この前後で撮った写真ありませんか?」


「ありますよ、コレですか?」


「うわ、これ、これです。たぶん携帯が動かなくなった原因これです。消すことできますか」


「はい、いま消します」


さすがに自分が引いた。

一般論でおおよそ信じられない会話が展開され、否定どころか信じられてるんだから。

引いたけど、不可抗力なほど楽しい。

何かの電波がお互いを開通してしまったかのように。


周りにいた不動産屋の彼女の同僚や他のお客様は、物件探してる時に事故物件とかで何が出たとか、そんな話聞きたくないだろう。

なのでぼくは、隣で物件探してる人に密かに土下座したくなった。


でも、その話。

もっとしたくなるんだよ。

彼女の体験談、凄すぎて。


「すいません。いつも私こんな話したことないのに。あなたにはしちゃうんですよね」


彼女は、事故物件の話とか、普通なら怖いだろ、不動産屋としてはタブー過ぎる話をしてるのに平然としてた。

むしろ。


『うれしそうですにゃん』


にゃんたろうが困った声で呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る