第3話
急に仕事がなくなった。
不景気のあおり。
生産ライン縮小とのことで、ぼくががんばってた工場の夜勤の生産ラインは全てなくなるというものだった。
トドのつまり。
ぼくはクビになったのだ。
これからどうするか悩んでいた時だっただけに、タイミングは悪くなかったが、部署異動したばかりで喜んでいたぼくはもういない。
(異動して一ヶ月だろ?)
日勤で生活するには苦しいからと、稼ぎのいい夜勤に異動した矢先すぎる出来事に、全ぼくが泣いた。
いや、泣いてる場合じゃない。
ぼくが住んでいたのは会社の寮。
挙句、派遣切り宣告は一ヶ月を切っていた。
これから、仕事をギリギリまで続けつつ、新しい仕事を探して、引っ越して…。
ちょっと待った。
なんの心の準備もできていない。
できていないじゃないか。
こんなの悪い夢すぎる。
とりあえず落ち着けぼく!
そこはまだ暮らして一年も経たない土地。
たいして仲のいい知り合いもいない土地だった。
おまけに、派遣切りをする側の派遣会社の担当とは、そこから全く連絡が取れなくなり。
誰にも相談もできないまま、必死に怒涛の引っ越しを終え。
派遣会社のごたごた、新しい就職先との契約も、引っ越し当日に全て解決し。
ぼくはモエツキタ(ほんとにモエツキタ)
さあそこからが。
また新しい環境だったわけなんだが。
残念なことには残念なことが重なるもので。
ぼくの平穏な日常は、まだ先だということが判明した。
「まあ、おいしい話だとは思ってたんだけどさ。寮費無料って話」
呟いて、ぼくはがくんと肩を落とした。
『いいじゃないですか。初めから寮費満額出すより』
そう説教してる声の主は見えない。
ナナミ。
これが彼の名前だ。
ぼくの世話係みたいな方。
文字通り、透明人間だけど。
去年から一緒にいる。
「そりゃそーだけどさー」
霊的な存在といっていいかはわからないが、彼はぼくに害をなさない存在だ。
むしろ危険なことは知らせてくれる。
だから、ぼくにとっては、むしろありがたい存在である。
というわけで、守護霊もどきと自分の中でもう結論づけてるとこもあるけど、言い方を変えて、彼のことをぼくはファミリーと呼んでいる。
「おいしい話には裏がある」
『裏じゃないです。ちゃんと担当の方に言われたことじゃないですか。サイト更新してなかったんだから仕方ないんじゃないですか?』
「知ってるやーい。拗ねてるだけだーい」
そんな彼に説教されてるのは、新しい仕事のこと。
ネット経由で探した仕事だった。
が、どうやら、ネットに掲載されていた情報が更新されていなかったらしく、寮費無料と謳われていた内容は、半永久的ではなく、三カ月という期間だけ格安という話だったことが判明した。
だもんで。
今とりあえず、如何ともしがたい悔しさたるかを、ぼくは彼に訴えていたのだが。
『そこで拗ねる意味がわかりません。路頭に迷わず済んだだけいいじゃないですか』
「わかってるよ、ありがたいと思ってるって」
ナナミは冷静にそう突っ込み。
ぼくはため息とともに反省したが。
三カ月過ぎると、上等な金額が寮費として引き落とされるのだから、ぼくとしてはぼやぼやしてるわけにはいかなかった。
(三カ月って)
またすぐ引越しの流れじゃないの。
善は急げ。
それしかない。
だもんで、新しい住処を探すべく、都内に旅立ったわけだが。
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