#10 でも僕は君が悪魔に取り付かれているとは全然思えないんだ。

 一年次夏休み中の僕とネイスンの文通のやり取り。


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 サリア・マークへ


 無事に家に着いたかな。僕は家に着いてこの手紙を書いています。帰ってから両親に 学院生活はどうだったか、浄化されたかどうか散々問い詰められてしまいました。まったく心配性の親です。僕がサリアくんに打ち明けた事については内緒にしています。あらためて変わらず接してくれてありがとう。おかげで僕は冷静に自分の問題と向きあう事ができそうです。そちらの家の様子はどんな感じかな。返事まってるよ。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 こちらは元気にしています。ネイスンが元気そうでなによりです。 僕は親にこっぴどく叱られてしまいました。入学式にナーディア先生にさんざんこてんぱんにされたこと、そして礼拝のデューリヒの件でまた懲罰を受けた事を学校から知らされたみたいで、お前はなんて悪魔に惑わされやすい子供なんだ、とこっぴどく叱られてしまいました。ただ成績表でデリンジ先生が歌を評価してくれてる通知を見てようやく気がおさまってくれました。

 ネイスンのためになれてよかったです。僕も自分の悪魔の声を聞こえまい聞こえまい と一生懸命がんばっているのですが、なぜか気を抜くと聞こえてしまいます。

 サリア・マーク

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 サリア・マークへ


 それは大変だったね。でも僕は君が悪魔に取り付かれているとは全然思えないんだ。そう思うのはよくないことかなあ?

 そういえばクルスとは結局何があったんだい?こんな事聞いていいのかわからないけど・・・・

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 ありがとう。でも僕に悪魔がいるかどうかはアリュヌフの神にしか分からない事だから、なんともいえないよ。

 アルバント・キンベルクがクルスは危険分子だから関わってはいけない、て言われて、悲しいけど今後クルスと関わる事はないよ。

 それよりも秋の祭典何するんだろうね。やっぱり歌かなあ?

 サリア・マークより

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 サリア・マークへ


 そうなんだ。でも彼女はアリュヌフの神に愛されているのだろう?何の危険分子かよくわからないけど、関わって君が処罰される事なんて無いんじゃないかなあ。

 秋の祭典、神秘劇だったら準備期間短いし、課外授業と同じ事するかもしれないね。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ

 確かに言われて見ればクルスは誰にとっての危険分子なのかが分かりにくいな。先生達はアリュヌフの神の意思に組しているはずだし。思い出せばアルバントの言ってた事は訳が分からなかった。

 課外授業といえば、メンフィスとかいう人の歌未だに頭から離れないよ。あの歌恐ろしいな。あんな醜いしわがれた声でどうしてここまで心が動いてしまうのだろう。悪魔みたいだ。

 サリア・マークより

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 サリア・マークへ


 どっちにせよアルバントが君をクルスから引き離す為に言ってるのは確かだね。でもアルバントちょっと権力ありそうだしあまり刺激しない方がいいかもね。アルバントの目の届かないところで喋れたらいいのにな。

 頭から離れないならばいっそメンフィスの歌をアレンジして祭典で歌うのはどうかな。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 まあクルスの事は今考えても分からない事しかないし、夏休み明けに考えるかな。

 メンフィスの歌アレンジか。デリンジ先生、悪魔の業だとか言ってたし許してくれない気がする。それにアリュヌフの民心得に「他人の物を奪ってはならない」ってあるじゃないか。あれだってメンフィスの歌だから、僕たちのものにしてはいけないよ。

 サリア・マークより

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 サリア・マークへ


 すごいね、ちゃんと教典覚えているんだね。僕ももっと勉強しないとな。

 それで教典をよくよく見たら「不協和な音を立てる音楽を聴いてはならないし許してはならない。」とも書いてあるしメンフィスの歌がもしそうならば良くないかもしれないね。

 ところで、夏の終わりごろにうちのニンジン畑が収穫されるそうだから、お土産にくつか持って行くよ。うちのニンジンはとても美味しいです。楽しみにしててね。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 僕はまだまだ罪深い存在だ!また悪魔の声が聞こえてしまった。でも悪魔の声は僕にしっかり生きるよう言ってくるんだ。妙だろう?そのくせにアリュヌフの神を否定するような事をいってくる。つまり、僕を間違った方向に生きて欲しいんだ。僕はこれと戦わなければいけない。

 ニンジン持ってきてくれるの?嬉しいなあ。楽しみにしているよ。

 サリア・マークより

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 サリア・マークへ


 やっぱりサリアは聖歌隊の道頑張った方がいいと思う。そうすれば悪魔もきっといなくなるよ。それと、クルスの事も含めて思うんだ。アルバントが勝手に脅しているだけなら、アルバントよりも同等、あるいは上の立ち位置になればいいと思うの。そうなれば簡単に邪魔できないと思う。問題は聖歌隊にどうやって入るかだよね。さすがに僕はそれは分からないなあ。

 ニンジン友達に持っていきたいって言ったら、どういう関係なのか、って親に疑われてしまったよ。まあ半分間違いでもないんだけど、そんなことない、て否定したよ。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 あのさ、ごめん、こんな事訪ねていいか悩みながら手紙を書いているんだけど、クルスの事も普通に協力してくれるし、君は僕の事今どう思っているのかなあ。つらい思いさせているんだったら申し訳ないと思って、それだけが知りたい。

 サリア・マークより

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 サリア・マークへ


 サリアは優しいね。僕がサリアが悪魔に取り付かれてると思わないのは、サリアは僕自身の悪魔を無くしてくれてるからなんだ。対等に受け入れてくれるの多分君くらいだよ。サリア以外にこの、変な気持ちを向けてし まったら、溺れてしまったり拒絶されたりしてさらに苦しむと思う。サリアははっきり気持ちを示してるけど、それでもありのまま受け止めてくれてるから、僕は今救われているんだ。君を信じる事で僕は悪魔から逃れられている。サリアはもっと自分を信じていいと思うよ。

 ネイスン・チルレアより

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 ネイスン・チルレアへ


 ありがとう。こちらこそ幾分か心が救われたよ。

 そうだね、僕はもっと自分を信じていいんだと思う。きっと自分を信じて前に進めばアリュヌフの神も微笑んでくださる。ありがとう。

 そろそろ夏休みも終わりだね。この手紙で最後かな。ニンジン楽しみにしています。

 サリア・マークより

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