#09 世界が新たに世界を望んだ。こうして我々の住む世界が創られた。
教典:創世の章(抜粋)
我々が心と称するものの一つ一つは世界であり、真実である。真実は人の心の数 だけ存在し、それらは初めに我々よりも大きな真実・世界から創られていた。
最初にアリュヌフの神がいた。アリュヌフの神はそれ自身が一つの世界であった。世界が新たに世界を望み歌った。響きの中に世界が作られる。こうして歌の中から我々の住む世界が創られた。
世界は混沌としており、アリュヌフの神は秩序を歌った。光を食物とする植物には慈愛の性、草を食物とする動物には奉仕の性、肉を食物とする動物には支配の性を歌った。こうして同じ食を共有するものは同じ知を得るようになった。動物と植物の集う世界。それが我々の地球となった。
そしてそれらを総括するために歌われたのが、慈愛の性の植物から産まれた聖草セリウミャである。この草にアリュヌフは真実を与える力を授け、またアリュヌフの神自身もそれを食用とした。この草は誰にも見つからない場所で生えていた。アリュヌフの神はこの世界を良しとされた。
アリュヌフの神は次に自分と同じ世界を作り出す物を、自分が作り出した生物の中 から選び出した。植と肉、両方を食物とする人間である。アリュヌフは、人間達をセリウミャの草のある所へ歌で導きだした。
聖草セリウミャは真実の香りを放つ草であり、同じく真実の存在であるアリュヌフの神が常に食用とするものであった。アリュヌフの神はそれを人間に嗅がせた。『同じ食を共有する者に同じ知を得る』という法則の通り、人間にはアリュヌフの神と同じ真実が心に備わ った。こうしてあらゆる生物の中で人間だけが魂を手に入れた。
アリュヌフの神は人間達にセリウミャの草を育てる歌を歌った。人間達は土を耕しセリウミャを植えた。こうしてセリウミャの園が出来上がった。
人間はそれ固有で世界を持つ生き物であり、世界と世界の関わり合いを望んだアリュヌフの神は愛を歌った。一つは無償の愛であり、もう一つは友愛であり、最後の一つが性愛である。愛によって歌が広がり世界が交じり合い、響きが出来上がった。
人間達も響きを喜んだ。人間は響きをつくる事に興味を抱いた。そして根幹であ るアリュヌフの神を忘れ自分が一番であるという傲慢さを抱くようになり、響きの中 から不協和音が生じて悪魔が誕生した。
悪魔は人間達を響きの中に留まっているように唆した。そして人間達を自分のも のにしようとした。人間の魂が本当の響きの出る場所を見失い彷徨う事を危惧したアリュヌフの神は悪魔と戦う決意をした。その美しい歌により悪魔は祓われるが、しかし悪魔は狡猾で、一度死んだように見せかけてまた復活を繰り返すためその戦いは終わる事はなかった。
悪魔とアリュヌフの神との戦いは数千年も続き、その度に人間たちの心は幾度となく大きく揺り動かされ、結果正義と悪の渦巻く数々の戦乱の原因となった。
その結果、人間達は生き抜く事のみに関心を抱き、その為に自らの響きを保守しアリュヌフの神への関心は次第に薄れていった。人間たちは土地開発に乗り出して、自然が次々と破壊された。それによりセリウミャを育てる者もいなくなり減少していった。
セリウミャはアリュヌフの神の聖なる食物である故、その減少は神にとって危惧すべきものであった。もしもアリュヌフの神が死んで只の世界になってしまった時、人間たちが響きに捕らわれて死に向かう事を何としてでも避けねばならなかった。
そしてアリュヌフの神は地に下った。しかし地に下るさいに力を随分と使い、弱弱 しい姿で地に降りられた。しかし御業は衰える事なく健在で、襲われる事は一切無 かった。
アリュヌフの神を最初に発見したのはレミーノ・オルシオであった。レミーノ・オルシオはアリュヌフの神の弱弱しい姿を見て驚いたが、同時に神から多くの啓示を受け、山奥の別荘に神を住まわせた。後のアリュヌフ学院となる場所である。
そのアリュヌフ学院は神の命により創設され、世界中から集められたセリウミャを山奥の別荘に植え、香壇を作り上げた。神は香壇の香りの満ちる場所に住まわれた。 そこで神の歌を歌い、神に基づいた響きを作り上げる事で、この世界を人間達の本 当の居場所を与えるために、今も存続し続けている。
人間は最後に響きを越えて根源の世界に帰る悟りを必要とする。
教典:規則の章(抜粋)
○七戒
一 まず第一にアリュヌフの神を求めなさい。
二 自らを脱ぎ捨て、自らの外を求めなさい。
三 アリュヌフの神の定める掟に従いなさい。
四 上位者を敬いなさい。
五 悪魔と悪魔を良しとする世界に近づいてはならない。
六 同胞の世界を認め助け合いなさい。
七 男女の愛は世界の創生の根本である。アリュヌフの神の定める愛の流れに従い
なさい
○アリュヌフの民心得
一 早寝早起きを心がける事。調和した生活リズムは不協和音の悪魔を退ける。
一 肉食を少なくする事。肉食は支配の性を強める。全く食べない必要は無いが、食べ過ぎる事でアリュヌフの神を忘れやすくなる。
一 肉のうち、卵はアリュヌフの神の世界の源泉を意味するため許される。魚も獣ほど支配の性を強めないため許される。
一 不協和な音を立ててはならない。悪魔がそこから生まれる。
一 不協和な音を立てる音楽を聴いてはならないし許してはならない。
一 人を殺してはならない。
一 他人の物を奪ってはならない。
一 神の許しなく神を見てはならない。語りかけてもならない。
一 迷った時は教典を開け。教典自身があなたにやるべき事を示して下さる。
一 それでも分からない時は悟者を訊ねよ。悟者は道を整えて下さる。
一 御業を受けた者の死体に触れてはならない。また、それについて語る事も許
されない。
一 婚姻はアリュヌフの定めに従い選ばれた者と結べ。
○悟者心得
一 悟者はアリュヌフの民を導く使命が与えられる。
一 悟者はアリュヌフの神によって選定される。
一 教典はアリュヌフの民の響きを守るための規定である。悟者はアリュヌフの民を導く目的ならば教典と異なる行為をしても許される。
一 ただしそれらの行為もアリュヌフの神が許さない場合裁きが下される。
○聖歌隊心得
一 聖歌隊はアリュヌフの民の代表として信仰を表す為にアリュヌフの神に歌を捧げる使命が与えられる。
一 聖歌隊はアリュヌフの神によって選定される。
一 聖歌隊は不協和な音を立ててはならない。また、聖歌以外を歌ってはならない。
一 以上の点を除いて聖歌隊は悟者と同じ資格を持つ。
○修道士心得
一 修道士は悟者の中でも特別アリュヌフの神に仕える使命が与えられた者である。
一 香壇の管理、アリュヌフの神との対話、教典の改訂と説教が使命である。
一 修道士はアリュヌフの神によって選定される。
一 修道士は神父の言葉に従う事。
一 修道士は定められた仕事以外に人前に姿を現してはならない。
○アリュヌフ学院生心得
一 アリュヌフ学院生は幼き頃よりアリュヌフの民になる決意をした者たちである。
一 最低7年の修養を必要とする。勉学に励む事。
一 服は別記で定める制服(男女別)を常に着用すること。
一 外に出る時は制服に付けられたフードを必ず被る事。
一 月の最後の礼拝には必ず出席する事。
一 5年生は礼拝の神秘劇を行う。
一 上級生を敬う事。
一 新入生は香壇のセリウミャの水遣りをする。修道士に定められた当番に従い必ず行う事。
一 食堂以外の食事は厳禁である。
一 問題があった場合すぐに悟者の先生あるいは修道士に相談すること。
一 香壇に許可無く侵入してはならない。
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