第2話 散歩行こ 2
夏の太陽は暑い。
街を照らす昼の日光は容赦なく地面にいる犬と少女にも降り注いでくる。
こんな季節なのにいつもの黒い恰好で外に出てきた夏野は青い空を見上げて呟いた。
「暑いわね」
「ああ、暑いな」
「クーラーの効いた部屋でずっと過ごしたい気分だわ」
「奇遇だな。俺も同じ気分だよ」
「散歩に行こうと言ったのはどこのどいつなのよ」
「お前だよ!」
「まあいいわ。行くわよ」
「おう」
夏野が歩き始めたので、和人も後をついていくことにした。
どこに行くのかと思ったら、夏野は道路を渡ってすぐの日陰の自販機の前で立ち止まった。
お金を入れてボタンを押してジュースが落ちてくる。
それを手に取ってプルタブを開けて飲んだ。
「ふー、この一杯のために生きている」
「安いな。お前の人生」
まあ、今のジュースは130円もするので決して安いとは言えないが。
「文句があるならあなたの分は買ってあげないわよ」
「……買ってください」
いらないと思っていても、目の前でおいしいそうに飲まれていると自分も欲しくなってしまうものだ。
犬の体では自分で買う事も出来ない。見ているしか無いのは拷問だ。
「最初からそう素直になっておけばいいのよ」
「俺は最初から素直だろ?」
「そうね。素直な駄犬だわ」
そう言って夏野はジュースを買ってくれて、和人の前に置いた。
和人はそれをじっと見る。犬の前足で突いてみる。
「って、どうやって飲めっていうんだ!」
缶ジュースは犬の手で飲めるようには出来ていない。当たり前だが。
夏野はすっと和人の前からジュースを取り上げた。
「仕方ないわね。飲ませてあげるから、口を開けて上を向きなさい」
「くっそー、飲料メーカーの陰謀だ!」
「ほーら、ご主人様からのお恵みよ!」
「うおー!」
いろいろ文句を言いたいことはあったが、ジュースはとてもおいしゅうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます