第4話


    - 4日目 -


 昨日の猫達がどうなったか心配だったが、見ず知らずの相手のことを、いちいち気にしていては、ここでは身が持たない。

鳴き声が聞こえないので、寝ているのか、それともどこか別の場所にでも移されたのだろう、何気なくそう思っていると、

「よう、お隣さん。今日も静かだねぇ」

と、隣の檻に入れられた別の犬が、俺に話しかけてきた。

隣とは壁で遮られていて、話しかけた相手がどんな犬なのか分からないが、雰囲気から俺と同じ中型犬だということは分った。

俺の檻の中は、俺1匹だけだし、もはや処分されるものと諦めていたので、とくに吠えることもなかった俺は、このセンターの中でも静かな方だった。

隣のヤツが、不審がるのも無理はない。

「別に吠える理由もないしな。俺もあと少しで処分室行きだ。今さら何言っても仕方ないしよ、吠えるだけ腹が減って損ってもんだ」

「そりゃそうだ。俺も明日、処分されちまうことになってるけど、もうここまで来たら、死ぬ覚悟もついちまったよ」

言って、その犬は大きなため息をついた。

どこか寂しげなその言い方に、ヤツに何か共感するものを俺は感じた。

「あんた、名前は何てんだ? 俺はコタローだ」

「俺かい? 俺は『ゴン』だ。これでも親父は血統書付きだったんだぜ」

ゴンは壁越しにでも分るくらい、機嫌よさそうに鼻を鳴らした。

血統書なんて、所詮は人間が勝手に決めた、ただの血筋の善し悪しに過ぎない。

人間は皆、平等が保証されているのに、俺ら動物は、血筋だけで差別を受けてしまう。

だが、ゴンにとってはそれが、せめてもの自慢なのだろう、親父のことを言うときだけ、声が妙にはずんでいた。

「ゴンて名前があるってことは、あんたも飼い犬だったんだろ? 何でこんな所に?」

「やぁ、何て言うか、イヤなことがあって家出をしてね、そのまま野犬になっちまった。コタロー、おまえもそうなんだろ?」

「ん…………………ああ、まあね」

その質問に、俺は曖昧に答えた。飼い犬だった頃のことを、あまり思い出したくなかったのだ。

 その後、俺とゴンは日が暮れるまで、処分のことも忘れて世間話をした。

ここに来て、こんなにも楽しい時間を過ごしたのは初めてだった。

だが、今日も仲間は数匹処分され、明日にはせっかくいい仲になったゴンも、処分されてしまうことを思い出すと、その楽しい時間も虚しく感じられた。

 何で俺は、犬に生まれてきたのだろう?

 何で人間は、俺達を殺したがるんだろう?

 誰にぶつければいいのか分らない怒りに、その夜、俺は眠れなかった。

小窓から見える月が、涙でかすんで見えた。

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