第2話

    - 2日目 -


 外は相変わらずの雨模様。 俺は今日も小窓から、それを眺めている。 他に何もすることがないのだから仕方ない。

水たまりの泥のような色の空は、殺処分を待つ俺の心のように暗く重たい感じがする。

すると、雨の向こうにいくつか、空とは反対に明るい、赤や黄色の花のようなものが、いくつか揺れて動いているのが見えた。

それは、数人の人間の子供達の雨傘だった。近くに小学校があるのだろう、その誰もが雨の中、楽しそうに並んで歩いている。

 その子供の中の1人の女の子が、窓からそちらを眺めている俺に気付いて、

「あっ、ワンちゃんがいる」

そう言って、微笑んで俺に手を振った。

すると、それにつられて他の子供も、笑顔で俺に手を振ってきた。

「かわいいーっ」

「こっち見てぇ~っ!」

 俺がもうすぐ殺されるだなんて知らないんだろう。それどころか、ここがそういった場所だなんてことも知らないに違いない。

それだけに、あの子供達の笑顔を見るのは、俺には辛かった。

たまらず俺は、窓から離れて顔を隠したが、なおも子供達の声は聞こえた。

 そう言えば、以前飼われてた頃も、近所の子供達が、学校の帰りに給食の残りを、俺に持って来てくれていたっけ…………。

あまり味のしないコッペパンにかじりつく俺の頭をなでながら、子供達はいつも楽しそうにしていたのが、つい昨日のコトのようだ。

あの頃が俺の今までの生涯の中で、一番楽しかったなと、当時を思い出していると、俺のとは別の檻で叫び声がした。

数匹の犬達が、必死に吠えている。

奴らは檻から出されると、センターの職員達によって、奥の部屋へと無理矢理連れて行かれようとしていた。処分室に送られるのだ。

「ワンワンワンッ!!」

 ここにいる犬や猫は、7日経っても飼い主が来ないと、殺処分されてしまう。

彼らにとって、今日がその日なのだ。

(死にたくないっ!)

(助けてっ!)

冷たいコンクリートの廊下に、彼らの悲鳴が響き渡る。

それは、処分する側の人間には決して分らない犬の言葉。

 だが、俺には彼らの叫びが、恐怖が、そして殺される運命にあり、それをどうすることもできない彼ら自身の非力さ、惨めさが痛いほど伝わってくる。

俺も、あと数日で同じ目に合うのだから。

その悲しい声を聞きたくなくて、俺は前脚で自分の耳をふさいだ。

だが、犬としての優れた聴力は、それくらいではどうにかなるようなものではない。

 数分後、俺の耳の奥に、仲間の断末魔の悲鳴が響きわたった。その声もだんだん弱々しくなり、数分後には聞こえなくなった。

それでも、しばらくは耳を押さえた前脚を、どけることができなかった。

どけた途端、また彼らの悲鳴が聞こえてしまうような気がしたのだ。

 ここで、そんな恐ろしいことが起こっているとも知らず、外ではさっきの子供達が、

「ワンちゃ~ん、出ておいで~!」

と、笑いながら俺に向かって言っていた。

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