野犬コタローの7日間
京正載
第1話
- 1日目 -
鉄格子付きの小さな窓から見える外の景色は、今朝からの雨でよく見えなかった。
何とか数軒の家の屋根が見えるので、とんでもない田舎でないのは確かなようである。
俺を閉じこめているこの部屋は、何とも殺風景だが、雨露に身体が濡れる心配がないことだけはありがたい。
ただ、コンクリートの床から伝わる冷気は、堪え難いものがあったが。
俺は野良犬、名は『コタロー』。雑種でどこにでもいるような、極々普通の犬である。
元々は飼い犬だったが、ワケあって今では立派な野犬だ。
いつどこで、のたれ死んでもおかしくないような、惨めな日々をもう数ヶ月も続けていたが、それでも野犬なりに、何とかこれまで生き伸びてこれたのは、単に運がよかったからかもしれない。
しかし俺は今、動物愛護センターという、愛護とは名ばかりの、動物専用の牢獄に捕らわれの身になってしまっている。
今、思い起こしても、とんだ大ドジを踏んでしまったと、何度後悔したことか。
それは、つい昨日のことだ。 エサを探しに、住み処にしていた公園をウロウロしていたところを、大きな虫取り網のようなモノと、首を締めつける針金を持った、ここの職員に捕まっちまった。
俺達を捕まえる人間がいるって、分っていたのにこのざまだ。何とも情けない話しさ。
ここに捕まった動物は、7日経っても飼い主が現れないと処分されてしまう。
つまり殺されてしまうのだと、前に誰かに聞いたコトがあった。
ああ、俺の生涯も残り一週間か………?
何も悪いことをしていないのに、人間達の身勝手な理由で、無残に命を絶たれてしまう。
これのいったいどこが『愛護』なんだ?
今の俺は野犬だ。飼い主なんていない。
首輪に名前は記されているが、迷子札はついていないので、元飼い主に連絡されることもないし、俺が野犬になった理由もあって、来られても困る。
だから一週間後に、俺は確実に殺されてしまうんだ。
しかも、今回捕まったドジ犬は俺だけ。広い檻の中でポツンと1匹、1週間もの間、ずっと間抜け面をさらすことになる。
だが、まあいいさ。今さら慌ててみても仕方ないし、野犬になったときに、いつ死んでもいいと覚悟はしていた。
生き恥さらそうと、殺処分されようと、もうどうなったってかまうものか!
そう思うと、少しだけ気分が楽になった。
ふと、向いの部屋の檻を見ると、俺より一日早く連れてこられた犬が数匹いたが、その中で一匹、小さくうずくまり、大人しくしているメス犬と目が合った。 いや、合った気がしただけかもしれない。毛並みのいい、白い小型犬だ。
何を見ているのか、その目は虚ろで、俺のことなど気付いていないかのようだった
そんな彼女も、6日後に処分されちまう。
本人はそれを知っているのか知らないのか、ただ一匹、他の犬が吠える中で、檻の隅の方で静かにしていた。
まるで、本当はその場にいないかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます