数珠の絆
@macchamitumame
第1話 逃げられない若者
ズジャアアアアアアと枯れ木の間をすり抜け黒い空を駆け。ブラックホールのような神社の門をくぐり。青年の体は巨大な銀色の石に強い力で吸い寄せられた。青年は目を見開き放心状態のまま、石にぶつかる直前でクッション替わりのマットに当たって落ちた。
「あぁ……」
「ゆうちゃん!」
数人の若い男女は、襤褸雑巾を纏って目が虚ろなままの青年に駆け寄った。雑巾の隙間からは、血が滴り落ちる。
「天罰じゃーーーーー! この島を捨てたから罰が当たったんじゃ!」
老人達は朱色の顔で青年を睨みつけ、続いて他の若者達を見つめた。
「こいつはいいから、うちのそうじを手伝ってくれんかのう」
「村祭りの準備があるんじゃ」
「夕餉の手伝いを……」
樹皮のように乾いてひび割れた肌に埋まった、木のうろのような目で、老人たちは若者達に近寄り、枯れ枝のような手でぐいぐい若者達を引っ張る。
「ゆうちゃんが……手当をしないと」
「私がするからお前たちは皆様のお手伝いをしろ」
神主・桜鬼修一郎は木の枝をかたどった銀の杖を降ろすと。ゆうちゃんと呼ばれた青年に近寄り、彼の耳元で囁いた。
「お前達は一生この村に住むのだ。無駄なあがきはよせ……」
腹の底が鈍く痛むようなそのおどろおどろしい眼差しと声に、青年は冬山に放り込まれたが如く震えだす。
「ぼ、ぼくはいい……みんなおじいさんやおばあさんの手伝いを……」
「わかった……」
時々青年を振り返りながら。若者たちは墨で塗りつぶしたような光のない瞳でトボトボ歩き出した。
『まさか……この数珠ブレスレットをはめたとたん……いや、村にきた途端にこんなことになるなんて……』
白い息が黒い景色に溶けていく中。四人は成人式を思い出していた。
数珠の絆 @macchamitumame
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