032

「もしかして……クロードさんですか?」

「えッ⁉」


 クロードは、思わず飲んでいた紅茶でむせてしてしまった。


 そして、アンリエッタは、クククと笑いを必死に堪えていた。


「そっちの方が面白いから、クロードお前は犯人になることを進めるぞ」


 アンリエッタは、クロードにそう言い茶化していた。


 当然と言うべきか、スゥの推理は見事に的外れな回答だった。スゥは、ただただクロードに対し平謝りしていた。


「もう良いよ。姉さんの聞き方が悪かった。むしろ、そう言う回答を出させようとしていたくらいだ。だから、大丈夫。今回の流行り病を持ち込んだ訳では無く、本人も意図せず持ち込んでしまったんだ。居ただろ? 姉さんに無理矢理に連れて来られた少年が――」


 スゥは、考えるも出も無くその答えが直ぐに分かった。


「まさか、カレン君ですかッ⁉」

「ああ、そうだ。まさか、姉さんの失態がこんなことになろうとはね」

「まあ、あれだ。スゥ、友達が出来て良かっただろう?」


 アンリエッタからスゥへそう聞かれたが、それはスゥにとって複雑な質問だった。


 カレンと時空の壁を越えて友達に慣れたことは、間違いなく喜ばしいことだった。けれど、街中の皆が流行り病に侵されているこの現状を考えた時に、その天秤がどちらに傾くのかと聞かれれば、それは答えられるはずもなかった。


「だから、姉さん。スゥを困らせない」


 クロードは、透かさず困っているスゥへ手を差し伸べた。


「忙しい合間を縫ってでもその顔を見たいぐらいに、困った顔をするスゥが余りに可愛くてな」


 スゥは、咄嗟に手で顔を隠した。


「取り敢えず、用事も大方済んだし、今日は帰ることにするよ」

「そうか。スゥ」


 アンリエッタは、スゥを呼んだ。


 スゥは、顔を隠していた手の指と指の間からアンリエッタを覗き込んだ。


「次は、タルトタタンなんてどうだ」


 それは、アンリエッタからの要望だった。


「勉強しておきます」


 スゥは、ペコリとお辞儀をクロードの背中を追い、アンリエッタの職場を後にした。

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