第四章 030


「なんか、街から元気が無くなっちゃいましたね」

「そうだな。皆、流行り病で家から出たがらないのさ」


 スゥとクロードとで、買い物に出ていた帰りだった。


 最近、街では流行り病が蔓延していた性か、店にも客足が途絶え、暇な日が続くようになっていた。それは、何もクロードの店にだけで言えることでは無く、ここ一週間程度で、数十人もの人達が体調不良を訴えていた。


 もしかすると、その予兆は前から会ったのかもしれないが、今になってその症状が皆一様に発症していた。その詳しい原因はまだ分かっていなかったが、その治療法は東洋医学と呼ばれる生薬を調合し、処方する治療が有効だったのが、せめてもの救いだった。


 けれど、問題は、その患者の数だった。


 数人程度ならまだしも、数十人となると、伝染病の疑いが強かった。しかし、感染力は強くとも、その繁殖力はあまり強く無いようで、適切な治療を行えば、危険に晒されることは無かった。


「スゥもちゃんと手洗い、嗽をするんだぞ」


 クロードは、スゥに念を押した。


「はい、大丈夫です」


 スゥは、クロードに両腕で力瘤を作り、自分が元気な姿を見せた。


「そうか。なら、安心だ。僕は、これから姉さんの所へ行かなきゃならないんだが、スゥはどうする? 店に残るかい?」

「私もお邪魔にならないなら、一緒に行きたいです」

「なら、一緒に行くとするか」


 クロードは、スゥの頭をポンポンと撫でた。


「アンリエッタさんの所へは、何をしに行くんですか?」

「引き続き、蔓延している流行り病について調べなくちゃならなくてね」


 これだけ蔓延していても、誰一人その病による被害者を出さずに済んでいるのは、クロードとアンリエッタのおかげだった。逸早く、察知した二人が流行り病の分析をし、その手立てを示したことが、大きかったのだ。


 店に着き、買って来た物を一旦テーブルの上へ置き、手洗い嗽をした。こうした日々の行いで流行り病に罹るリスクを少しでも減らせるからだ。


 そして、買って来た食材を使いスゥは、料理を始めた。


 アンリエッタの家へ行く時は、何かを持って行かなければアンリエッタをがっかりさせてしまうからだ。前に一度、何も持たずに訪れた際には、強がっていたものの、白地にがっかりした様子を見受け、それ以来必ず持って行かなければと、いつも用意をして行くようにしていた。


 今回は、最後に会った時に、リクエストされたエッグタルトを作ることにした。アンリエッタは、基本的に好き嫌いなくなんでも食べるのだが、どうやら甘いモノが好きなようで、良く好んで食べていた。


 それ以来、持って行く時には、ケーキやお菓子が多くなった。


「スゥ、もう少し掛かりそうなら、僕は先に行ってても大丈夫かい?」

「はい。一時間程掛かってしまうので、私は後から行きます」


 スゥは、クロードと別れ、黙々とエッグタルト作りに励んだ。


 そして、オーブンから焼き上がったばかりのエッグタルトを取り出すと、表面が綺麗に焼けており、見るからに美味しそうな出来栄えだった。これなら、アンリエッタも喜んでくれるだろうと、スゥは笑みを浮かべた。


 エッグタルトがある程度まで冷めるのを待ち、ケーキボックスへと移し替えた。温かくても美味しいのだが、冷まさなければエッグタルトの形が崩れ、ぐちゃぐちゃになってしまい、持ち運びに不便なのだ。


 味が美味しいくても、見た目が悪くては、その美味しさもいくらか減ってしまう。味も見た目も料理の重要なポイントの一つなのだ。スゥは、クロードから貰った本を熱心に熟読し、料理人顔負けの腕前となっていた。


 そして、いつものように、二階の窓からアンリエッタの仕事場へと向かって行った。

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