022

 数日が経った。


 今では、おつかいも一人で悠々と熟すことが出来るようになっていた。それこそ、ホライズンに住む、皆の優しさや、温かさがスゥを元気付けてくれているし、逆にスゥの姿を見て、皆も元気付けられているのだ。


 それもそのはずだった。


 次にカレンに会うまでに、前よりももっと頑張ると自分の中で決めたのだ。だから、頑張らない訳にはいかなかった。再会するまでに、もっと可愛らしい、誇らしい自分を見せたいと言う、乙女心なのかもしれない。


 今日は、レリウス商会へクロードと二人で行った帰りのことだった。


「レリウスさんは、風邪を引いているんですか?」

「どうしてだい?」


 クロードは、不思議そうにスゥへ聞き返した。


「だって、レリウスさん喉が痛くて話せないんじゃないんですか?」


 クロードは、一つ溜め息を付いた。


「そう言えば、話していなかったね。レリウスがどうして話せなくなったのか。レリウスは、昔寄り添って行った奥さんが居たらしいんだ。その奥さんと一緒に狩りをするのが日常だったらしい。けれど、ある日、野鳥狩りをしていた人間の放った鉄砲の弾が、その奥さんに当たってしまったんだ」

「えっ……」

「当然、レリウスはその奥さんの死を悲しんだ。三日三晩ずっと涙を流し、声を荒げながら、声が枯れるまで泣き続けたらしい。そして、流す涙も無くなった頃、レリウスは自分の声を失ってしまったんだ」


 スゥは、てっきりただ喉が痛いだけだと思い込み、以前来た時に、持っていたキャンディーを差し出したことに後悔していた。知っていたとしても何が出来たか分からないが、それでも何か他のことが出来ていたのではないか、と思って無らなかった。


「でも、医者が言うには、レリウスは話せるはずらしい」

「えっ?」


 スゥは、首を傾げた。


「どうやら、本人が心を閉ざしてしまっているようで、その性で話せなくなっているだけらしい。恐らく、レリウスは臆病になっているんだろう。もし、言葉を話そうとして、話せなかった時の恐怖は、計り知れないからね」


 レリウスは不器用な人だ。


 その不器用な性格故に、理解して貰えなかったりすることもある。その一方で、本当は誰よりも繊細な心の持ち主だった。だから、より一層き難しそうな人だと勘違いされてしまうのだろう。


 それは、いつかの、自身と重なるところもあるスゥは、それが他人事だとはとても思えなかった。


「こればっかりは、レリウス本人の問題だからな。だから、レリウスがどういう人なのか知っている僕達は、レリウス自身の意思で口を開くその日まで、ゆっくりと待ってあげようじゃないか」

「はい」


 スゥは、笑顔でそう答えた。


 ――誰が付けたのかも分からない。

 ――誰が呼び始めたのかも分からない。

 ――どんな意味があるのかさえ分からない。

 ――光と闇が相反する、境界線より遥か彼方にある最果ての都、ホライズン。


 そこには――


 時空の境界線も越える――出会いがあった。

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